クリスマスにプレゼントを贈る風習は、東方の三賢者が 幼子イエスに贈り物を贈って その誕生を祝った故事にちなんで始まった。 そのエピソードを元にして書かれたО・ヘンリーの短編小説が『賢者の贈り物』である。 ある年のクリスマス。 貧しい夫婦が、それぞれに、クリスマスのプレゼントを贈る計画を立てる。 妻のデラは、夫のジムが大切にしている懐中時計を吊るす鎖を買うために、自慢の髪を切って売り、夫のジムは、デラが欲しがっていた鼈甲の櫛を買うために、自慢の懐中時計を質に入れた。 デラが贈った鎖につながれるはずだったジムの懐中時計は彼の手許にはなく、ジムが贈った櫛が梳くはずだったデラの美しい髪は失われた。 二人の贈り物は、見事に すれ違ってしまったのだ。 だが、小説家は、これこそが最も賢明な贈り物――“賢者の贈り物”であると書いて、物語を結んでいる。 ナターシャの家で、『賢者の贈り物』が取り沙汰されることになった、そもそものきっかけは、ナターシャが新しいリボンを欲しいと言い出したことだった。 ナターシャは それまで、自分の髪に飾るリボンを買う際には、赤色や青色等、鮮やかで目立つ色の細いシャープな印象のものを選ぶことが多かった。 洋服も、その好みに準じていた。 それがナターシャの好みなのだろうと、瞬は思っていたのだが、実は そうではなかったらしい。 ナターシャは、最初に氷河が選んでくれたリボンや洋服が そういうタイプのものだったので、それが氷河の好みだと思い、氷河の好みに合うものを選び続けていただけだったのだ。 ある時、氷河が 清楚清純な白、柔和可憐な薄桃色の花が好きだと言うのを聞いたナターシャは、即座に 自分の好みを変えてしまった。 「ナターシャは、真っ白なリボンとピンク色のリボンを買いに行くヨ! フリルとレースのふんわり可愛いリボンだヨ!」 “パパの可愛いナターシャでいること”が、ナターシャの人生の最大の目標である。 その目標実現のための努力を、ナターシャは惜しまない。 ナターシャは 早速、お気に入りのアクセサリーショップに オデカケする算段に取りかかった。 そうして、彼女は、氷河と瞬を引き連れて、某スカイツリーの脇にある大きなショッピングセンターに乗り込んでいったのである。 そのショッピングセンターの通路やウィンドウに、『賢者の贈り物』のポスターが ずらりと貼られていた。 プレゼントを贈り贈られている恋人同士らしき二人のシルエットはセピア色。20世紀初頭の古き良きアメリカ風。 セピア色のシルエットには、『失敗しない贈り物を』という文字が白抜きで重なっている。 通路という通路に、これでもかと言わんばかりに並べて貼られた幾十枚幾百枚もの同じポスター。 そのポスターの意図が理解できなかったナターシャは、ポスターの意味を瞬に尋ね、結局 その日、ナターシャたちはリボンではなく『賢者の贈り物』のブルーレイディスクを買って帰宅することになったのだった。 |