ナターシャのパパとマーマは、もちろん 彼女の信頼を裏切らなかった。 パパとマーマは すぐに ナターシャの許に、ナターシャが求めているものを運んできてくれた。 「ナターシャ、泣くな。大丈夫だ」 「ナターシャちゃん、あっち。あっちに 小さな光が見えるでしょう? あの光のあるところに行って。そこできっと、ナターシャちゃんは幸せになれるから」 「ナターシャ、必ず、生き延びろ」 手渡されたのは、答えだけである。 パパとマーマは、その姿を見せてくれなかったし、声も聞こえなかった。 だが、それは確かにナターシャの心に届けられたのだ。 『あの光のあるところに行って』 『ナターシャ、必ず、生き延びろ』 それが、ナターシャのパパとマーマが彼女に示した“答え”だった。 地上世界で荒れ狂っていた音や光や影や熱は、今は 静かになっていた。 ナターシャがいるのは、命のない世界。光のない世界。温度も音もない世界。 その世界で、ナターシャは ただ一人の生きている人間だった。 何もない世界。 だが、ナターシャが目指すべき場所だけはあった。 マーマが言っていた“小さな光”。 それだけはあった。 だから、ナターシャは歩き始めたのである。 マーマが示してくれた小さな光の方へ。 『必ず、生き延びろ』というパパの言葉を実現するために。 「パパ……マーマ……パパ……マーマ……パパ……マーマ……」 目指す“小さな光”は はっきり見えている。だが、遠い。 歩いても歩いても、その光の場所に、ナターシャは なかなか辿り着けなかった。 泣きながら、かすれた声で パパを呼び、マーマを呼び――それが 徐々に大きな声になり、最後に絶叫じみた悲鳴になったのは、どれほど大きな声をあげて騒いでも、どうせ聞いている人はいないのだから、誰かに叱られることはないのだという、自棄めいた心のせいだった。 もう いい子でいる必要はない。 悪い子になっても、誰にも叱られないのだ。 だから、ナターシャは大声で叫んだのである。 その大声を聞きつけた誰かに見付かり、掴まり、叱られたかったから。 歩いても歩いても近づけない遠い小さな光を目指すのが 嫌なのではない。 そうではなく、一人で目指すことが つらいのだ。 パパとマーマが一緒でないことが。 誰か――悪者でも 破壊神でも 誰でもいいから、パパとマーマのいるところに連れていってほしかった。 「パパーっ !! マーマーっ !! 」 「パパ、マーマ、どこーっ !? 」 「パパ! マーマ! ナターシャ、恐いよーっ !! 」 叫んでも叫んでも――ナターシャは声を限りに叫んだのに、喉が張り裂けそうなほど叫んだのに、風すら答えを返してくれなかった。 |