アンドロメダ座の聖衣をまとうことを許され、アンドロメダ座の聖衣を持って日本に帰国した僕は、白鳥座の聖衣をまとうことを許され、白鳥座の聖衣を持って日本に帰国した氷河に 訊いたんだ。
「ナターシャっていう名前の女の子を知ってる?」
って。
ナターシャちゃんが 氷河と関わりがある子だとは思えなかったけど――僕が城戸邸で初めてナターシャちゃんに会った時に僕が知っていた外国人は氷河だけで、お母さんのことを『マーマ』と呼ぶ知り合いも氷河だけで、氷河以外には誰も、外国の女の子の名前を持つ少女に繋がるものを持っている人がいなかったんだ。
ほとんど何も期待せずに、僕は氷河に訊いたんだけど、氷河とナターシャちゃんには、思いがけない繋がりがあった。
氷河のマーマの名前が、ナターシャだったんだって。
もちろん、氷河のお母さんとナターシャちゃんの間には、名前以外の共通点は何ひとつなかったけど。

氷河の知っている人かもしれないって、すごく期待していたわけじゃない。
でも 『もしかしたら』って 一抹の期待は抱いていたから、実際に、氷河とナターシャちゃんの間には何の関係もないっていうことがわかって、僕は少し落胆した。
がっかりして両肩を落としたら、氷河が急に不機嫌になって、
「で? おまえの知っているナターシャは美人なのか?」
って、訊いてきた。
どうして氷河の声や態度が刺々しくなったのか わからないまま、
「可愛い子だよ」
と答えたら、氷河は ますます眉を吊り上げて、
「この世に、おまえより可愛い女の子なんているわけがないんだから、さっさと諦めることだ」
って、わけのわからないことを言って、ぷいっと どこかに行ってしまった。

どこから やってくるのか わからないナターシャちゃんは、不思議な魔法少女だから、時々 何を言っているのか わらないのは仕方ないと思うけど、氷河は幼馴染みで、僕たちは 同じ世界に生きている人間同士なのに、言っていることの意味がわからないのは、ちょっと問題のような気がする。
氷河が優しいことはわかってるけどね。
兄さんが帰ってこなくて 沈んでる僕を、氷河は すごくぶっきらぼうに慰めてくれて――星矢や紫龍みたいにストレートじゃなくて、だから ちょっとわかりにくいんだけど、でも、氷河が 僕をすごく心配してくれてることはわかってる。

聖闘士になって再会した僕の仲間たちは皆、優しくなってた。
きっと、人が優しくなるには、強さが必要なんだと思う。
もちろん その強さっていうのは、心の持つ力のことだよ。






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