coincidence or destiny






スポーツは、中高生が参加できる個人競技であれば、世界選手権のある競技やオリンピックで採用されている競技でなくても構わない。
囲碁や将棋、チェスといった、主に頭脳がものを言う勝負事や、エレクトリックスポーツも対象とする。
文芸、美術、音楽といった芸術分野も対象。
つまり、分野は(ほぼ)何でもいいのだ。
日本国内で成人を含んで十傑に入る実績、もしくは それに相当する成績を保持する男子、段級位制を採用している競技なら、中学生で取得できる最高位を保持する男子であるならば。
その資格ありと認められ、入学が許されれば、在学中の学費は全額免除。
入寮希望の場合は、寮費も全額免除。
もちろん、制服も支給される。

在学中に 相応の成果を上げ、全国版の新聞や全国版のテレビニュースに校名を採り上げられる等、校名を高めることに寄与すれば、規定に従って、報奨金も出ることになっていた。
その報奨金を受け取らずに積み立てておき、大学への入学金や学費に充てることもできる。
それが、グラード学園高校のAO入試と特待生制度の仕組みだった。

この少子化の時代に、あえて新しい高校を創立し、生徒を募集するのである。
それくらい 派手に他校との差別化を図らなければ、学校経営は立ち行かないのかもしれない。
もっとも、グラード財団が 今 こんな時代に 学校法人を設立したのは、儲かりすぎている部門の利潤を国に進呈するのではなく、自分たちで使ってしまおうという、いわゆる税金対策なのではないかという説もあったが。

ともあれ、グラード学園高校は、一芸(以上)に秀でた生徒を集めるための学校だった。
一芸(以上)に秀でた生徒に高卒の学歴を与えるための学校――という見られ方もしていた。
運動能力に優れた中学生や、引きこもりの若き芸術家、勉強をしたくない天才たちのための高校。
グラード学園高校の特異(むしろ 現実的と言うべきか)なところは、“親の財力”も一芸と見なして、入学を許可している点だったろう。
一芸がない者は、都内の私立高校の平均入学金の10倍の入学金で、入学が許可される。彼(の保護者)は、授業料も平均の5倍の額を支払うことになっていた。
才能がある者は その才能で高校に入り、才能のない者は金で 入学する。
グラード学園高校の全生徒の学費を平均すると、ちょうど東京都の私立高校の平均額に相当。
グラード学園高校は、才能のある者と そのパトロン(候補)を同じ学び舎に集わせ、才能ある者を育成すると同時に、才能ある者を育成する者を育成するための学校でもあった。


一芸に秀でていれば、至れり尽くせり。
そんなグラード学園高校は、瞬たちのような、高校や大学に進学したい養護施設に育ちの孤児たちには、理想の高校だった。
寮があるので、施設を出て入寮できる。しかも、寮は、すべて個室である。
その上、学費はただ。
成果に応じた報奨金が出て、大学の入学金や学費まで世話してくれ、場合によっては 財団が未成年後見人を立ててくれるというのだから、言うことはない。

グラード学園高校が、特待生制度を採用している他の高校と違うのは、学業の優秀さでは入学が認められない点。そして、特待生制度の対象から野球やサッカーといったメジャーなチームスポーツを排除している点。
グラード学園高校が重視するのは、あくまで生徒個々人の持つ、努力だけでは どうにもならない天賦の才のようだった。

しかし、15歳の中学生に 日本国内十傑は、かなりハードルが高い。
スポーツなら、オリンピック強化選手に選ばれるレベルでなければならない。
芸術分野に関しては、グラード学園高校が指定する全国コンクールやコンテストでの優勝、国際コンクールやコンテストでの優勝や入賞――が、特待生としての入学要件になっていた。


「まあ、でも、無事に潜り込めてよかったぜ。ほんと、不便だよな。おまえ、学科試験なら 日本国内十傑なんて余裕なのに、勉強だけは“一芸”に含まないなんてさ」
「進学校にはしたくないんだろうね。実際、東大に生徒を10人合格させるより、甲子園で優勝する方が、学校の名を売るには はるかに効果的のようだから」
とはいえ、グラード学園高校は、最も手っ取り早く 校名を売ることのできる その手段を採用していないのだが。

瞬は、中学時代、学業の方に力を入れていて、スポーツでは記録会に参加しておらず、公式記録を持っていなかった。
グラード学園高校のAO入試の書類には、『100メートルを10秒で走ることができる』と書き、入学試験(といっても面談のみ)の当日、実際に100メートルのタイムを計測して、僅か10秒で合格を決めた――という逸話の持ち主だった。
ちなみに、星矢は、1000メートルと10000メートルのジュニア世界記録を持っている。


その日は、グラード学園高校の後期初日。始業式の日。
星矢と瞬が、半年前の入試の話をしていたのは、午前中、各在校生に上期の総合成績の通知が行われた、それと同じタイミングで、グラード学園高校の来年度の入試要項が発表になったからだった。
併せて、在校生のポイントシステムの改定と改定内容も発表になった。






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