「聡明な あなたのことだ。既に察していたでしょうが、勝手に私とナターシャちゃんのDNA親子鑑定をさせていただきました」 ブロン氏が 瞬に そう告白してきたのは、彼等の最初の出会いから ひと月が経った頃。 彼が冷静なのは、その鑑定結果が 彼にとって 良いものだったからなのか、良くないものだったからなのか。 瞬は 身を硬くしたのだが、ブロン氏の意外なほどの冷静は、その鑑定結果が全く あり得ないものだったから――らしかった。 「『親子関係は認められない。だが、完全な他人である可能性も低い。ミトコンドリアDNAは異なるので、父親由来の兄妹である可能性が最も高い』。それが鑑定結果です。慎重を期すために、2つの異なる機関に鑑定を依頼したのだが、どちらも鑑定結果は同じだった。『親子関係はないが、他人でもない。異母兄妹である可能性が最も高い』。そんなことはあり得ないのに。私の父は――両親は8年前に亡くなっている」 あり得ない鑑定結果。 信じられない鑑定結果。 だが、ブロン氏は、DNA鑑定結果が あり得ない、信じられないものであることに、納得しているようだった。 彼自身の判断も、『顔以外はマリエッタではない』なのだ。 それこそ、あり得ないことだったろう。 DNAからのアプローチ、科学からのアプローチを、彼は既に断念しているらしい。 となれば、問題は、“心”との折り合いということになる。 つまり残った唯一の問題が、最大の難問なのだった。 |