突然 目の前から姿を消した天使。
天使のいなくなった子供部屋で、その後、貴仁少年と彼の妹が どうしたのかを、瞬は あまり心配してはいなかった。
兄妹の両親をどうにかしてやることはできないが、あの優しいお兄ちゃんがいれば、優しいお兄ちゃんのために美貴ちゃんは きっと、前向きに生きることを考えるようになるだろうと信じられたから。
そして、それとは別に。それ以上に。
兄妹を案じている時間と余裕が、瞬には与えられなかったのである。
天使の仕事を終えて、江垣家の外に戻ってきた瞬に、
「ご苦労さん」
と、ねぎらいの言葉をかけてきた氷河の顔と声が 不機嫌そのものだったから。

雪が降りすぎている――氷雪の聖闘士の小宇宙が燃えすぎている。
瞬が一仕事を終えて戻ってくると、幼い頃の彼に戻ったように、氷河が すっかり焼きもち焼きになっていた。
氷河の“兄を慕う瞬と 瞬に慕われる一輝が気に入らない病”が 再発していたのだ。
それから半月ほど、瞬は、氷河のその病気を鎮めるのに、大いに苦労することになったのである。
あげく、貴仁少年の再訪がないことに しょんぼりしたナターシャが、
「パパ。ナターシャは優しいお兄ちゃんが欲しいヨ!」
と言い出したのだ。

そんなものは欲しくない氷河は、
「そのうち、どこかで拾ってきてやろう」
と、適当なことを言っている。
優しい おじいちゃんを拾ってきてくれたパパが、今度は 優しいお兄ちゃんを拾ってきてくれると信じて、ナターシャは 優しいお兄ちゃんが来る日を心待ちにしている。






Fin.






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