[ 沙織さんが 第一に求めているのは、平和。
唯一 求めているものも、平和。
それが強固で永続するものなのかどうか、それを肌で感じ 調べてきてほしい――というのが、沙織のご希望なんだろうね。
グラードがルリタニアの観光業・旅行業に本腰を入れるつもりなら、なおさら 平和は大事。
おとぎの国のように美しいルリタニアで権力闘争なんて、イメージダウンだもの。

[ グラードとルリタニアの益と発展のためだけでなく、それ以上に地球の現在と未来のための意義ある大プロジェクトも、政情が安定していないところでは成果は望めない。
すべては、平和という大前提あってこその話なんだから ]


[ 国王が病気なんだろう?
元首が変わった途端に、100億規模の契約を反故にされても困るしな。
沙織さんが お家騒動の予感がすると言っていたが、それは、あの 一目で軽薄で軽率で無能とわかる王子たちが王位争いを始めるということか?
あの二人は どう見ても、国の統治者より 観光地のガイド向きだ。

[ 今の国王は、地球のためになり、ルリタニアの益にもなるというので、グラードとのエネルギー共同開発計画に熱心だが、あの二人のどっちかがルリタニアの王になったら、共同開発の約束は反故にされかねない。
反故にされなくても、おざなりにされるだろう。
俺なら、あの二人のどちらかが国王になった時点で、即座にルリタニアからは手を引くぞ。
王位争いなんて無益なことでも始めたら、関わり自体を断って絶交宣言だ。
もう少し ましな人材はいないのか ]


この二人――この二人、話をしている?
声に出さず、思念で?
それとも、価値観や思考回路が似ているせいで、考えが噛み合っているだけか?

……相手の思考を読んではいない。
そうじゃなく――逆に、思考を送り込んでる?
何だ、この二人。
普通の人間じゃないぞ。
普通の人間じゃない。

「そういえば、国王陛下のご容態はどうなんでしょう? ご快癒は、いつ頃に?」
瞬に問われて、三役人が 揃って緊張した面持ちになる。
その質問を、三役人は いちばん恐れていたんだろうな。
もちろん、答えは準備済みだけど。
それは、グラードの視察団を迎えるにあたって、いちばん重要で、いちばんデリケートな質問の答え。
三役人は、どう答えるんだ?

「ご快癒に向かっております。まだ ベッドから起き上がることはできずにおりますが、意識も、一日に数回は取り戻されます。何にしましても、このたびの エネルギー共同開発プロジェクトは、我がルリタニア王国が グラード財団と一つの独立国として結ぶ約束。たとえ国王が変わろうと、そんなことには関わりなく有効です」

総務省!
先走り過ぎだ!
まるで、もうすぐ国王が死ぬみたいに!
まあ、国王も人間なんだから、いつかは――いつかは死ぬだろうが。

ああ、言わんこっちゃない。
瞬の顔が曇った。

[ ルリタニアには、世継ぎに限らず、ろくな人材がなさそうだな。
瞬は、国王が いつ元気になるのかを訊いたんだ。
死んだあとのことを訊いたわけじゃない ]


「そうなった時には、あの恰好ばかりを気にしている双子の王子のどちらかが 王になるのか? あの王子たちより、いい人材はないのか?」
「氷河!」

瞬の悲しい気持ちを打ち消すために、氷河は無礼を働いた。
瞬の気を引き立たせようと考えたわけじゃなく、ほとんど何も考えずに、反射的に。
瞬が、総務省の失言で暗く沈まされた気分を忘れ、同伴者の無礼に慌てる。
こういうことが、意識してではなく、“反射”でできる二人。
思念を送り合うくらいのことは、この二人になら容易なことなのかもしれない。






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