ナターシャの望みを、瞬が氷河に伝えたのだろう。
次の瞬間、ナターシャの寝台の横に 金髪の若い男がやってきていた。
ナターシャの寝台の枕元に腰を下ろしていた瞬が、氷河に その場所を譲る。
老女の姿をした愛娘に、彼女の孫より若いかもしれない父は、項垂れるように謝罪した。
「待たせて悪かった」
「パパ……」
「俺は、おまえの命を守りたかった。おまえの幸せを守りたかった。俺の願いは叶えられたんだな」
「パパ」

『必ず 生きて帰ってくる』と約束を交わして別れてから 片時も忘れたことのなかった優しいパパ。
もうすぐ再び長い別れが始まるのだから、その姿を もっと目と記憶に焼きつけておきたいのに、涙で視界がぼやけて、パパの姿が見えない。
ナターシャは手をのばした。
老いて、皺だらけになった手。
しかし、パパは 以前と変わりない、強さと優しさで 娘の手を握りしめてくれた。

「パパ。ナターシャを守ってくれて ありがとう。パパは ちゃんとナターシャとの約束を守ったよ」
「当たりまえだ。俺がナターシャとの約束を破るはずがない」
「じゃあ、パパ。また ナターシャに タカイタカイしてくれる?」
「世界一高い タカイタカイをしてやるぞ」
「約束だよ、パパ」
約束を交わしさえすれば、パパは必ず その約束を守る――守ってくれる。
それが70年後でも、100年後でも、1000年2000年後になったとしても、必ず。
パパと約束を交わしたことで安心したのか、急にナターシャの息は弱くなった。

「ありがとう、みんな。私は幸せだった。みんなも幸せに」
これからも その生を生きていく人たちの幸福を願って死んでいけるのだから、確かに彼女の人生は幸福なものだったのだろう。
その事実が、再会するなり 娘と別れなければならなくなった水瓶座の黄金聖闘士の心を慰めてくれた。
何より、これは しばしの別れにすぎないのだ。
約束したのだから、二人は必ず もう一度巡り会う。



「ココ、サムイ。カナシイナ。ココ、ドコダロ。サムイナ――」
「コワイヨ。ドウシヨウ。パパ。パパ、ドコ……?」

「ここにいるよ」
「大丈夫。もう恐いことなんかないんだ」

約束したのだから、もちろん 二人は再び巡り会うのだ。






Fin.






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