パパとナターシャと瞬ちゃんのことを考えてるうちに、ナターシャはすごく心配になって、その日、瞬ちゃんが パパとナターシャのおうちに来てくれた時に訊いてみたノ。 「パパは、瞬ちゃんが死ぬほど好きで、瞬ちゃんがいないと生きてられないんだヨ。瞬ちゃんもそう? 瞬ちゃんは そうじゃない? 瞬ちゃんは ずっと、パパとナターシャと一緒にいてくれる?」 って。 瞬ちゃんは、急に そんなことを訊かれて、びっくりしたみたいだった。 ううん。 瞬ちゃんがびっくりしたのは、ナターシャが泣きべそをかいてたからだったかもしれない。 だって、もし瞬ちゃんがパパとナターシャのところに来てくれなくなったら、瞬ちゃんがいないと生きてられないパパは死んじゃうんダヨ。 パパが死んじゃったら、ナターシャも死ぬしかない。 そんなことになったら――。 そんなことになったら悲しくて、だから、ナターシャは泣かないでいられなかったんダヨ。 瞬ちゃんは驚いて――いつもならナターシャと お話する時には、ナターシャの前にしゃがみ込むのに、今日はナターシャを抱き上げて、それで、ナターシャの顔を覗き込んできた。 それで、半べそをかいてたナターシャのほっぺを、ちょんちょんって人差し指でつついた。 「こんなに可愛いナターシャちゃんのところに来れなくなったら、僕こそ 悲しくて泣いちゃうよ」 って言って、それから、にっこり笑った。 嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに、悲しそうに、苦しそうに、つらそうに、優しく笑った。 そうして、ゆっくり話し出す。 「あのね、ナターシャちゃん。氷河は、氷河のマーマや先生や お兄さんみたいに思っていた人や――大切な人たちを たくさん失って、ずっと寂しかったんだ。でも、氷河は、ナターシャちゃんに会って変わった。ナターシャちゃんは、氷河を幸せにしてくれた。ナターシャちゃんには、ずっと氷河と一緒にいてほしい。氷河は、ナターシャちゃんが側にいてくれれば、大切な人たちを失う以前の、悲しみを知らなかった頃の、幸せだった頃の氷河に戻れるんだ。すっかり同じじゃないけど、ナターシャちゃんは お医者さんみたいに、氷河の心の傷を治すことができるんだよ」 「お医者さんは、瞬ちゃんでショ?」 って、ナターシャが言ったら、瞬ちゃんは、 「そうだね……」 って、ちょっと寂しそうに笑った。 ナターシャは、瞬ちゃんを こんなふうに寂しそうにさせたらいけないって思ったんダヨ。 だから、ナターシャは言ったんダヨ。 「パパは、ナターシャだけじゃ駄目だと思う」 って。 パパが ナターシャがいるからシアワセになってくれるんなら、ナターシャはすごく嬉しい。 でも、ナターシャがいるからシアワセになるパパが生きてるのは、瞬ちゃんがいるからだモノ。 パパとナターシャと瞬ちゃんは、三人でいるのがいいんダヨ。 「ナターシャは、瞬ちゃんがナターシャのママになってくれたら いいと思う。瞬ちゃんが側にいると パパが嬉しいから、ナターシャも嬉しい」 「ナターシャちゃん……」 そうダヨ。 それがいいヨ。 ナターシャ、天才ダヨ。 「ナターシャは、ナターシャのおうちは パパと瞬ちゃんとナターシャの 三人のおうちがいいと思う」 「そうできたら、僕も嬉しいけど」 瞬ちゃんは ほんのり笑って、小さな声で、そう言った。 そうできたら嬉しいっていうのは、そうしたいってことだヨネ? なのに どうして、大きな声で、大賛成って言わないノ。 大きな声で、そうしようって言わないノ。 『どうして?』って、ナターシャは瞬ちゃんに訊こうとしたンダヨ。 でも、ナターシャがそうする前に、パパが来た。 そして、 「そうなったら、俺も嬉しい」 って、言っタ。 「氷河……」 瞬ちゃんは、困ったみたいに何度も瞬きをして、最後に瞼を伏せた。 パパは、なんでだか、瞬ちゃんを見ないで、瞬ちゃんの手からナターシャをもらって抱っこした。 そして、 「ナターシャ。おまえは可愛いだけでなく、世界一 いい子だ」 って、ナターシャを褒めてくれた。 パパは すごく嬉しそうだった。 何度もナターシャのほっぺを すりすりしてくれて、いっぱいナターシャの頭を イイコイイコしてくれた。 パパが瞬ちゃんを見ないのは、ナターシャのアイディアが すごく嬉しくて 喜んでるのが バレると恥ずかしいからダヨ。 ナターシャには わかル。 もしかしたら、瞬ちゃんも? なんだか、そうみたい。 大人って、素直じゃないヨ。 瞬ちゃんは、ナターシャのアイディアを すごく喜んでル。 パパも、ナターシャのアイディアを すーごくすーごく喜んでるんダ。 それで、ナターシャは わかったノ。 瞬ちゃんをパパの側にいるようにすると、パパは嬉しくなって、幸せになって、ナターシャをもっと好きになってくれる。 もっともっと好きになってくれる。 ナターシャは、瞬ちゃんに『マーマ』っていう名前をつけてあげたヨ。 ナターシャが マーマを『マーマ』って呼ぶたび、パパは ますますナターシャを好きになってる。 Fin.
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