氷河が まだ沈んだままでいることは、一目で わかった。 「おはよう」 瞬が首をかしげて、それでも朝に ふさわしい微笑を浮かべて告げた朝の挨拶への氷河の答えは、なぜか、 「すまん」 謝罪の言葉だった。 何を謝られているのかが、全く、本当に、少しも わからない。 見当すらつかない。 しかし、氷河の顔つきは真剣そのもの。深刻ですらある。 おそらく氷河は何か誤解をしている、何らかの誤認をしている。 それはわかるのだが、氷河が何を誤解誤認しているのか、肝心の その点が わからない。 察することすらできないのが 少し悔しかったが、これは もう当人に確認するしかなく――。 「何を謝っているの」 と、瞬は氷河に尋ねた。 氷河の答えは、 「俺が おまえに夢を諦めさせた」 だった。 「どうして そういうことになるの」 瞬が重ねて問う。 氷河は、まるで幼い頃の彼に戻ったように、悔しそうに、悲しそうに、意地を張ったように、唇を引き結んだ。 マーマを助けられなかった自分の無力と、マーマに助けられた自分の命の軽重と、皆の前で泣いてたまるかという意地。 そういったものが ごちゃ混ぜになった時に、幼い頃の氷河が しばしば見せていた表情。 懐かしい――と、瞬の心は なごんでしまったのである。 今は昔のことを思い出して、心をなごませていて いい時ではないと思いつつ、だが どうせ 氷河のことだから、彼は愉快な誤解をしているだけなのだと、瞬は 今ひとつ、深刻になれていなかったのだ。 案の定。 |