あれは不意打ちだった。 自分のいる場所を他の幾つもの次元に繋げて、自分の気に入らない人や物を片っ端から 他の次元に飛ばしてしまう技を使う敵。 それしかできないけど、それが大問題の敵。 技を使う当人も無作為に――無責任にテキトーに――飛ばしてるから、異次元に飛ばされたら、まず戻ってこれない。 そんな敵に不意打ちを仕掛けられたパパとマーマは、自分たちよりも 自分たち以外の人――自分たちの近くにいた無関係な人たちを守ることに、自分たちの力を使った。 そして、実際に守り抜いた。 ナターシャだけが飛ばされちゃったのは、ナターシャが パパやマーマほど強い小宇宙を持っていなかったから。 そして、ナターシャが、パパとマーマにとって“自分たち”の一部だったから。 ナターシャは わかってるヨ。 だから、よそに飛ばされちゃったけど、ナターシャはパパとマーマの“自分たち”の一部だもん。 そんなの、当然のことだし、それが ナターシャは嬉しいヨ。 パパとマーマは ぎりぎりのところで、ナターシャが別の次元に飛ばないよう、力を尽くしてくれた。 ナターシャは この世界で空間移動するだけで済んだ。 一瞬での空間移動。 パパたちは 光速で動くことで それをするけど、ナターシャを飛ばした敵の技は、物を原子のレベルまで分解して、別の場所に飛ばし、そこで再構成する技だった。 敵の技に、ナターシャを守ろうとするパパとマーマの力が加わったせいで、移動先でのナターシャの再構成がうまくいかなかったんダヨ。 ナターシャの身体にいっぱいあった 繋ぎ目の傷は消えたけど、ナターシャは見た目が全然 違う子になっちゃった。 おまけに、ナターシャ―― 七生は、子供のくせに全然成長しない“変な子”だった。 姿は3歳か4歳くらいのまま、考えることと知識だけが大人になっていく“変な子”、“変わった子”。 そういう病気があるらしい、その病気は治らないらしい――で、“七生”は放っておかれた。 パパとマーマがいないと、ナターシャは 暗くて詰まんない変な子だった。 だって、誰もナターシャのこと、『大好き』って言ってくれないんダヨ。 七生は 生きてることが楽しくなかったんダヨ。 パパとマーマは、ナターシャをずっと探してくれてタ。 この世界にいることは わかってたカラ、最初はすぐに見付かると思ってたんだって。 外国とか、そんなに遠くに飛ばされてないことも わかってたカラ。 デモ、グラードのネットワークを使って見付からなくて、それで、ナターシャの見た目が変わってるかもしれないってことと、ナターシャの記憶が失われてるかもしれないってことを、やっと 考え始めたんだって。 「記憶が ちゃんとしてるなら、ナターシャちゃんは お利口で勇気があるから、日本国内からなら、一人でだって 僕たちのところに戻ってきてくれたでしょう? でも、そうならなかったから……」 それで、パパとマーマは、人間が作った社会の組織や 情報ネットワークに頼らずに、ナターシャを探し始めたんだって。 家族のいない子供がいる施設や場所を一つ一つ。 パパとマーマが 小人さんになったのは、人目を気にせず、自由に光速移動するため。 パパとマーマは、そして、七生を見付けた。 「ナターシャちゃんの姿形は変わってたし、以前のことは 全部 忘れてるようだったけど、そうに違いないって思ったよ。何より、氷河が――」 パパが、『あれは、俺のナターシャだ』って、断言したんだって。 ナターシャの魂――。 「僕たちが探してたのは、ナターシャちゃんの魂だったんだ」 って、マーマは言った。 七生がナターシャだって確信してたのに、パパがずっと何にも言わずに 七生を見てるだけだったのは、七生をナターシャに戻すことが ナターシャの幸せになるのかどうかを悩んでたからだったんだって。 パパたちはアテナの聖闘士で、命がけで 戦うことが お仕事。 いつ命を落とすかもしれない。 異次元に飛ばす敵とのバトルみたいなことが また起こって、ナターシャを危険な目に合わせちゃうかもしれない。 ナターシャの記憶が失われてるなら、アテナの聖闘士であるパパたちの許に連れ戻したりしない方が、ナターシャには幸せなのかもしれないって、パパは悩んでたんだって。 そんなこと あるはずないのに。 ナターシャの幸せは いつだって、パパのいるところにあるのに。 パパ、変なところで心配性ダヨ。 ナターシャがそう言ったら、パパは嬉しそうに 泣きそうになった。 パパ、マーマ。 ナターシャを見付けてくれて ありがとう。 すごく可愛かったから、いつか また小人さんになって見せてネ。 Fin.
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