「なぜ、そんな面倒事を引き受けたりしたんだ!」
翌日、事の次第を知らされた氷河は大激怒だったが、
「引き受けさせられたの。相手は沙織さんだよ。断れるわけがないでしょう」
それは予期していたことだったので、瞬は 諦め顔で やり過ごした。
「俺なら、無理だと言って、言下に断るが」
「ナターシャちゃんが、沙織さんの陣営にいたの。昨日の僕の立場に立たされたら。氷河だって抵抗できなかったと思うよ」
「む」
アテナとナターシャで構成されている敵軍に、たとえ黄金聖闘士が12人勢揃いしても 勝てるわけがない。
氷河は口をつぐんだ。

「氷河と一輝兄さんには 指揮者なんて無理に決まってるから、氷河たちに頼むことは 最初から考えなかったって、沙織さん、言ってた。見映えだけのことなら、僕より氷河の方が向いていたかもしれないけど、氷河に二管編成50人の奏者を一つにまとめあげることは無理だろうから、候補から除外したって。言ってみれば、僕は、氷河の適性不足の尻拭いをさせられるようなものなんだよ」

「パパは ナターシャだけのパパ。マーマは みんなの指揮者なんダヨ。沙織サンが そう言ってた。ナターシャも大賛成ダヨ!」
抱っこを ねだられ、抱きあげたナターシャに、明るい笑顔で そう言われ、氷河は反論の“は”の字も発せなくなってしまったのである。
ナターシャ ハッピースマイル エクスキューションをまともに食らった氷河にできたのは、沙織の発言に、
「俺は、ナターシャと瞬のものだ」
という短い訂正を加えることだけだった。






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