今となっては、すべては笑い話。
それらは、笑って語ることのできる懐かしい思い出になった。
その時には 本当に つらく、切なく、真剣に悩み、傷付きもしたことだったのだが、それらの一つ一つを、あるいは耐え、あるいは乗り越えて、笑って語ることのできる今という時を迎えることができたのだ。

「ほんの数ヶ月の準備期間で、日本の最難関大の医学部に合格してのけるんだから、瞬は 聖闘士でなかったらノーベル賞も取れるくらいの人材だったろうに」
「僕は、研究者じゃなく、目の前にいる人の苦痛を取り除いてあげられる医師になりたかったから、今がベストだと思ってる」
「おまえらしい」
その言葉を、紫龍が再度 繰り返す。
どれほど意外に思われたエピソードも、その真の姿が見えてくると、“瞬らしい”と感じる。
かつて青銅聖闘士だった者たちは、時を経て大人になったが、その心の中心にある核のようなものは、誰も何も変わっていないのかもしれなかった。


そうして、再び 五人が揃った。
星矢と紫龍と氷河と瞬と、そして、いつもの通りに ここにはいない一輝。
個性を極め、個人主義を重視していた先代たちとは異なり、“僕たち”“俺たち”で進む五人が、また新しい時を刻み始めるのだ。

「この時を本当に待っていたんだ。嬉しい」
「ごめんな。待たせて」
「星矢は僕たちのところに きっと戻ってきてくれるって、信じてたから」
会えないままに過ぎていった日々を懐かしむ二人の間に、
「何だ、そのやりとり。この俺を蚊帳の外に追い出して」
会えない日のなかった一人の仲間が割り込んでくる。

「俺がいない間、ずっと瞬を独占してたんだろ。いいじゃん、今くらい」
「おまえの“今だけ”“これだけ”“あと一つだけ”が、“今だけ”“これだけ”“あと一つだけ”で済んだためしがない」
「ここで おやつの話を持ち出すことはないだろ!」
「一事が万事ということだ!」
「おまえたち、いい歳をして、そんな子供みたいな――」

過ぎた時を取り戻すことはできないが、これから新しく刻む時を幸福なものに。
五人でなら それは容易なことだろうと、意識すらせず、彼等は信じていた。






Fin.






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