謎めいた灰色の静謐に覆われたハインシュタイン城。
そこに突然、目も眩むような明るい陽の光が飛び込んできたのは、瞬がハインシュタイン城に来てから ちょうど1週間後。
もともと1週間だった滞在予定。
これ以上 長く逗留しても、沙織に報告できる情報は増えそうにない。
それゆえ 予定通りにハインシュタイン城を辞去することにし、その旨をパンドラに告げ、彼女に引き止められている時だった。

城の中を明るく(騒がしく)したのは、他でもない瞬の仲間たちである。
星矢(たち)が いつもの乗りで、よそ様の城に押しかけてきたのだ。
「沙織さんが おまえ一人を こんなところに派遣したのが気に入らなくて、何が何でも おまえを連れ戻すって、氷河が うるさくってさ。さすがの沙織さんも 抑えておけなくなっちまったんだ。俺と紫龍は、氷河がよそ様に迷惑をかけないよう、お目付け役」
「星矢たちが 氷河の お目付け役って、沙織さんのガードは誰がしてるの」
「おまえがいなくなってから、雑魚っぽい集団の襲撃があったんだけど、沙織さん、へたすると、俺たちより強くてさあ」
「は?」

星矢が言うには、女神アテナは、その気になれば、青銅聖闘士五人の力を合わせたよりも強い。普段、聖域からの刺客を彼女の聖闘士たちに撃退させていたのは、アテナの聖闘士たちから仕事を奪わないためだったのだ――ということだった。
そのアテナの力をもってしても、瞬一人を危険な地に派遣したアテナの横暴を非難し続ける氷河を静かにさせることはできなかったため、アテナは氷河をハインシュタイン城に派遣(して、自分の周囲を静かに)することにした。
氷河が無意味で無駄な騒ぎやトラブルを引き起こさないよう、お目付け役として 星矢と紫龍が同行。
『じゃ、そういうことで よろしくね』
と、星矢たちは城戸邸から追い出されてしまったらしい。

逆に、瞬をハインシュタイン城に引き留めたいパンドラは、星矢の騒がしさに目をつぶって(耳をふさいで)、星矢たちの来訪を 瞬の逗留期間延長の理由にしようとした。
「なにも、お友だちがいらした その日に帰らずとも」
彼女は そう言って 星矢たちを城内に迎え入れ、ハーデスとの対面の場をセッティングし、かなり強引に“瞬様の お友だちの滞在許可”をハーデスから もぎ取った――ように、瞬には見えた。

星矢たちと対面したハーデスは、瞬の仲間たちの滞在を歓迎していなかったと思う。
その証拠に、このハインシュタイン家の当主は、明るく人懐こい星矢に ただの一言も声をかけなかったのだ。
ただ、その明るさを憎むように星矢を睨んでいた。
逆に 氷河は ハーデスを睨み、紫龍の視線は そんな三人に困ったように、三人の上を巡回していた。

瞬はといえば、ハーデスほど静寂を愛しているわけではないらしいパンドラに、意外の念を抱くことになったのである。
ハーデスが静謐、薄闇、孤独を望むから、パンドラは その意を酌み、その意に従っているだけなのかもしれないと、瞬は思うことになったのだった。






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