「英国のジェントルメンズ・クラブの会員なんて、半分が 勘違いで お高くとまった選民主義者で、3分の1が無能没落貴族で、4割がレイシストで、4人に一人がゲイだ」
実に甚だしい偏見である。
瞬に課せられた任務の内容を聞いた氷河は、そう言って、瞬の使命感に水を差してきた。

「ナターシャはどうするんだ。俺は店に出ている時間だぞ」
「ナターシャちゃんは眠っている時間だから、家に結界を張って、誰も侵入できず、ナターシャちゃんも外に出られないようにするつもりだよ。どれだけ時間がかかるか わからないけど―― 一回の会談で話がまとまってくれるといいんだけど……。何度も説得を重ねなきゃならなくなったら、いろいろ不都合が出てくるかもしれないし、臨機応変に対応していくしかないね」

英国への移動は光速で――ということになる。
平時は できるだけ、聖闘士としての力を使わずに 一般人と同じ生活を送りたいと思っているのだが、今回ばかりは仕方がない。
一瞬で英国に移動し、ジェントルメンズ・クラブで、2、3時間。
それが、ナターシャのマーマ かつ 光が丘病院の医師としての生活に支障をきたさずに、アテナの聖闘士としての務めを果たすために費やせる時間の限界だろう。
もしシドニー子爵と知り合い、説得するのに、幾度ものアタックが必要になった場合には、ナターシャを城戸邸か紫龍の許に預けることも考えなければなるまいと、瞬は思っていた。

氷河は、瞬の任務を快く思っていないようだったが、『やめろ』と言うことはしなかった。
彼もアテナの聖闘士なのだ。
いかに その任務が自分にとって不快なものであっても、聖域を守るための任務をやめるように言うことは、さすがの氷河にもできなかったのだろう。
彼は瞬に、『やめろ』と言わない代わりに、『頑張れ』と言うこともしなかったが。






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