「ナターシャちゃん? どうしたの?」
それが、ナターシャが パパとマーマと呼んでいた者たち――神を倒したものたちらしい。
確かに、神とも我々とも違う力――底知れぬ力を秘めていることが感じ取れる二人。
これは何というか――可能性の力だ。
限界のない、無限の可能性の力。
その二人の大人たちに、ナターシャが嬉しそうに報告を開始。

「パパ、マーマ。ナターシャに 新しいお友だちができたヨ。セオスちゃんっていうんだって。また来るって言ってた」
二人のうちの一方――頭部の毛が金色の人間が、ナターシャを抱きかかえる。
そうやって、人間たちは 互いの目を見て会話をするんだ。
それが、人間たちの真偽判定機の代わりらしい。
「セオスちゃん? キラキラネームを超越した、ものすごい名だな。セオスというのは、ギリシャ語で、『神』、『天主』、『天と地の創造主』という意味だぞ。何者だ」
「ナターシャのお友だちダヨ!」

『何者だ?』という問いに『ナターシャのお友だちダヨ』という答え。
我々は ナターシャと“お友だち”というものになったのか。
人間は、こんなふうにして 仲良しになり、力を合わせる者同士になるのだろうか。
「ナターシャは、セオスちゃんと、神様と人間のお話をしたヨ」
もう一人の大人が、金色の髪の大人に抱きかかえられているナターシャの顔を覗き込む。
人は こうして 目を見ながらでないと、交わす言葉に信憑性を感じることができないのだろうか。

「すごいお話をしてたんだね。ナターシャちゃんは何て言ったの?」
「人間は みんな仲良しで、パパとマーマとナターシャは大好き同士で、世界の平和を守るために力を合わせてて、悪い神様はやっつけたけど、いい神様とは仲良しだって、言ったヨ」
ナターシャの報告を聞いて、二人の大人は楽しそうに笑った。
「完全に正しいが、3歳の子供の話か、それが。レベルが高すぎるだろう」
「ナターシャ、レベル高い? うふふふふ」

レベルが高すぎる――つまり、適切なレベルを逸脱しているという評価を、ナターシャは誉め言葉と受け取ったらしい。
上機嫌の気持ちと表情で、ナターシャは、頭部の毛が金色の大人の首に しがみつき、そんなナターシャを見る二人の大人も、“愛しい”の気持ちと表情。
人間が皆 仲良しで、力を合わせて生きているというのは事実であるらしい。
そして、ナターシャの報告を『完全に正しい』と評する大人の言葉。
では、人間が“悪い神”を倒し、“いい神”と共生の関係にあることもまた事実なのだ――。


これは、我々だけで判断していいことではない。
我々だけで判断するには、問題が大きすぎて手に余る。
この青い星を どうすべきか。
我々は、母星に帰って指示を仰がなければならない
否、もしかすると この問題は、我々の母星だけでも判断できず、他の星、他の銀河、他の宇宙にまで、議案を提起して協議すべきことなのかもしれない。
そうする必要が、そうするだけの価値が あるだろう。この青く美しい星には。

ともかく、今の我々にできることは、我々が得た情報を携えて、急ぎ 母星に帰ることだけだ。
我々が この星に次に来るのは、この星の暦で2000年後。
いや、もう少し急いで、せめて1000年後には来たいが、ことによっては、結論を出すのに時間がかかり、もっと遅くなってしまうかもしれない。
5000年後か、10000年後か。
その時、この星はどうなっているのだろう。
人間はどうなっているだろう。
途轍もない進化を果たしていることも、逆に滅亡していることも 考えられる。


青い星の未来。
我々には 想像することもできない。
我々にできるのは ただ、5000年後、10000年後にも この青い星が 今と変わらず青く美しい姿でいてくれることを、願うことだけ。
そして、我々のお友だちになった小さなナターシャが、人間を“いい生き物”だと信じたまま、幸福な一生を過ごせるよう、祈ることだけだ。






Fin.






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