シェーンブルンへいらっしゃい







あたくしの名は、・ド・ロレーヌ・オートリッシュ。
ウィーン社交界の名花にして、またの名をお夫人。

欧州屈指の名門、かのハプスブルク家とフランス・ブルボン王家の血を引き、世界に冠たるハイリゲンクロイツ財団の総帥を務める、超高貴で超金持ちな欧州第一の美女ですわ。
某極東の島国の西校テニス部のお蝶夫人なんかとは、格が違いますのよ。

え? お蝶夫人を知らない?
ま、無知ですのね。
あなた、いったいどういう教育を受けていらしたの?
お里が知れますわ。

ええ、でも、それは知らなくても結構よ。
そんなことは、これからあたくしが話すことには全く不必要な知識ですもの。
あなたは、このあたくし、お夫人が、超高貴かつ超金持ちな美女だということを知っていれば、それでよろしいわ。


ところで、あたくしのように、美しく、金持ちで、教養もある上流社会の貴婦人が、日々の生活の中で最も怖れることが何だかご存じ?

――と、聞くだけ無駄ね。
あなたのようにビンボー暇無しな下賎の者には、おわかりにならないでしょ。

それは、『退屈すること』。
誰が何と言おうと、マリー・アントワネットの昔から、貴婦人はそういうものと相場が決まっているのよ。

美しく、金持ちで、教養もある上流社会の貴婦人であるあたくしも、もちろん、それが何より怖い。
ですから、あたくしは、退屈しないためだったら、どんなことでもするわ。

先日も、あたくし、それは楽しい退屈しのぎをいたしましたの。
その時のことを、このあたくし、お夫人がわざわざ、あなたに語って差し上げますわ。
心して、お聞きになってね。






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