ところで、あたくしの考えた退屈しのぎは、『愛した人は敵だった、チェーンが叫ぶ、愛か死か』計画というものでしたの。

キャストは、古代の邪悪な神に操られ、世界征服を狙う悲劇の美女が、このあたくし、
そのあたくしに洗脳され、かつての恋人と敵対することになる悲劇の美少年が、瞬。
そして、愛する恋人が敵側についたことで苦悩する正義の闘士が金髪碧眼の氷河。

彼等の雇い主の協力を得ているんですもの、計画は順調に進みましたのよ。
沙織嬢に用事を言いつかって、私の屋敷にやってきた瞬を捕え、その恋人を敵だと思い込ませる催眠術をかけるのは簡単でしたし、その瞬に、怪我をさせない程度に沙織嬢を襲撃させるのも、至極容易でしたわ。

つい昨日まで愛し合っていた二人が、敵同士になるなんて、この上ない悲劇ですわよね。
金髪碧眼の彼の苦悩ぶりったら、私までもらい泣きしてしまいそうなほど大仰で、深刻なものでしたわ。

もちろん、そのあたりのことは、沙織嬢が映像に収めて、私の屋敷のスクリーンにオンライン&オンタイムで送ってよこしましたのよ。
あたくしは、逆に、あたくしの屋敷にいる瞬の様子を沙織嬢の財団のオーストリア支部へと送信して差し上げましたわ。


沙織嬢の方からは、
「瞬、なぜなんだ。あんなに愛し合っていたのに、おまえは、本当に俺を忘れてしまったのか……! 本気でアテナに敵対する気なのか…… !? 俺と闘うというのか……っ!」
と苦悩する氷河の映像が送られてまいりますでしょ。

そして、あたくしは、瞬が、
「氷河……? どこかで会ったことがあるような……ううん、彼は様のお望みの達成を妨げる敵なんだ……。なのに、どうして僕は……彼を見ると、こんなに胸が騒ぐの……」
と悩んでいる瞬の隠し撮り映像を、沙織嬢に送ってさしあげたわけですの。

恋人たちの苦悩ぶりときたら、それはもう、下手な東Aアニメ映画を観ているよりずっと楽しゅうございましたわ。

そう言えば、あの東Aも、似たような設定で映画を作ったことがあるそうですわね。
もっとも、その時は、洗脳されたのは氷河の方だったようですけど。
沙織嬢、その時に、氷河と闘ったのが瞬ではなく、あの黒髪長髪だったことが相当不満だったらしくて、所詮東Aは高貴な人間の嗜好が理解できていないと、それは憤慨しておりましたわ。

高雅な趣味は、やはり、上流の人間たちだけでひっそりと楽しむのがよろしいですわよね。
下賎の者たちと同じレベルで楽しむことなど、あたくしたちのように選ばれた人間がすることではございませんもの。






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