それから何年かが、あっという間に過ぎていきました。
瞬ちゃんは相変わらず ちびぎつねで、もう氷河のベストになる夢もお布団になる夢も諦めていましたが、あの変ちくりんな特訓のおかげで、氷河は立派な聖闘士になることができたのです。
聖闘士になった氷河は、ある日、
「ポチ。俺は、悪者を倒すために日本に行かなければならなくなったんだ。悪者を倒したら、すぐに帰ってくるから、それまでおまえ、一人でも泣かないで待っているんだぞ。どんぐりは、もう集めなくてもいいからな」
そう言って、日本というところに出掛けていきました。

瞬ちゃんはちょっと寂しかったですし、とっても氷河の身が心配だったのですが、素直に『こん』と頷きました。
いい子にしていないと氷河に嫌われてしまうかもしれないと思うと、瞬ちゃんは『一緒に行きたい』とか『行っちゃいやだ』とか、我儘を言うことができなかったのです。
多分氷河は、悪者をやっつけて、この世に猟師さんがいなくなったら帰ってきてくれるだろうと思って、瞬ちゃんは寂しいのを我慢することにしたのでした。

──悪者はたくさんいるのでしょう。
氷河は毎日戦っているのでしょう。
日本に行った氷河は、なかなか瞬ちゃんのところに帰ってきてくれませんでした。
けれど、氷河に『泣かないで待っているんだぞ』と言われていた瞬ちゃんは、泣かないで待っていました。
氷河を待ち続けることや、自分が一人ぽっちで寂しいことに慣れてしまうくらい長い間、瞬ちゃんは氷河を待ち続けました。

本当は、氷河が瞬ちゃんのところに帰ってきてくれないのは、悪者との戦いが終わらないからではありませんでした。
氷河は、瞬ちゃんに似ている人間の“瞬”と一緒にいたくて、だから、瞬ちゃんのところに帰る気にならないのでした。
けれども、そのことを、瞬ちゃんは知りません。
氷河は瞬ちゃんに電話も手紙もあげませんでしたから。
何も知らない瞬ちゃんは、氷河が悪者と戦い続けているのだと信じて、氷河の帰りを待ち続けました。

氷河と一緒に暮らした丘の上の小屋の前にどんぐりを積んで、瞬ぎつねは 今でも氷河が帰ってきてくれるのを、たったひとりで待っているのです。






Fin.






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