(そろそろだな)
太陽が中天に達した時――が、総攻撃開始の時刻だった。
指揮官を欠き、弱りきった城塞内の領民たちに、さほどの抵抗ができるとも思えなかったが、オード川河畔に陣取った十字軍兵士たちは、その時の到来を今か今かと待ちわびていきり立っている。
いずれ、略奪が目的なのだろう。攻撃目標は、富裕で聞こえたトランカヴェル家の居城なのだ。
ユーグは、総攻撃に加わるつもりはなかった。
だから、本営から離れたこの丘で、落城寸前のカルカソンヌを一人眺めていたのである。
おそらく、今日の日が暮れる前に、レーモン・ロジェ・トランカヴェルほどの高名な騎士を悩ませ続けた、彼の美しい弟も兄の後を追うことになるのだろう――そう思いながら。
(ん……?)
その彼の視界の端に、黒い影が映った。
総攻撃にはまだ少し時間があるというのに、城塞に向かう三騎の馬――。
抜け駆けを企んだ不届きな騎士かとも思ったが、それにしては、妙な遠回りをして、入口のないはずの方向へと馬を向かわせている。
ユーグは、その三人の馬とマントに見覚えがあった。
ブルゴーニュ公、ヌヴェール伯、サン・ポル伯――レーモン・ロジェの友人でありながら、己れの領地を守るために十字軍側に寝返った三人の領主たち。
(何をする気だ……?)
三人の領主たちの狙いが何なのかを考えるより先に、ユーグは馬に飛び乗っていた。
そして、彼等の後を追って、落城間近のカルカソンヌ城塞に忍び込んだのである。


城壁の内に通じる抜け道を、彼等は以前から知っていたものらしい。
十字軍司令官の甥に尾けられていることも知らない三人の騎士たちは、城塞の中心にあるコンタル城の中庭に、ユーグを導いてくれた。
城塞内のカタリ派信者たちは、城主を失って戦意を喪失し、死を覚悟したのだろう。城内には騒乱も狂乱もなくひっそりと静まりかえり、あちらこちらから祈りの言葉だけが洩れ聞こえてくる。
三人の領主たちは、脇目も振らず、城の奥へと向かっていた。
彼等の狙いは、噂に高いカタリ派教団の財宝、あるいは密書の類なのかと考えながら、ユーグは彼等の後を追ったのである。
彼等の目的――それがトランカヴェル家の至宝だったということを、間もなくユーグは知った。






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