眠れぬ夜を過ごしたのは、ユーグもシュンも同じだったろう。
しかし、シュンが兄や多くの領民の死を悲しんで瞳を赤くしているのに比べ――。
(俺は、この子の白い手に愛撫される夢にうなされて寝不足か……)
シュンはすっかり大人しくなっていた。
死という最後の希望さえ失われた人間なら、それも当然のことだったろう。
人目につかぬようマントで包み、ユーグはシュンを、以前は彼の兄のものだった城に連れて――運び込んだ。
そして、伯父が確保しておいてくれた、コンタル城の最も奥まった一画にある一室に落ち着くことになったのである。
そこは、数日前までこの城の主だった男の私室だった。
続き部屋になったその部屋に略奪の跡がないのは、おそらく、ここが司令官かそれに準じる者の居室に使われることを見越した兵たちが、この一画に手を付けるのを遠慮したためらしい。
トランカヴェル家の紋章が宝石と共に縫い込まれた壁のタペストリーも、棚に並んだ上等の酒やグラスも、手つかずのまま――主の生きていた時と全く変わらずに――残っている。
すっかり生気を失って人形のようになってしまったシュンを寝台に横たえる時、何故かユーグは昨夜の悪夢が嘘のように冷静だった。
今、彼の手の中にいるのは、唯一の肉親を失い、敵の只中に置き去りにされ、悲しみに打ちのめされた哀れな子供にすぎない。
天使のような無垢、カタリ派完徳者の尊厳、悪魔より質の悪い蠱惑――そのいずれでもいいから、何らかの意思と感情を、この人形に取り戻させてやりたい――そう、ユーグは思った。
だが、その術がわからない。
兄の仇ともいえる男に抱きあげられても無反応な子供に、兄の城、兄の領地、兄の領民を奪った略奪者の仲間の一人に差し出されたスプーンを払いのけもせずスープを口に含む人形に、どうすれば生気を取り戻させてやることができるのか、ユーグには見当もつかなかった。






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