僕は狂っているのだろうか? ふと、そんな思いが僕の脳裏を横切った。 そんなはずはない。 僕は、僕がこの戦いで得るものが、人々の益になると信じればこそ、自らの身をこの戦いの中に投じたのだから。 『信じる?』 『信じているのはおまえだけだろう』 と、僕の中の僕が僕に囁く。 『おまえ以外の人間は皆、おまえの戦いを嘲笑っているんだぞ』 『その証拠に、必死で戦い続けるおまえに力を貸そうとする者は誰ひとりいないじゃないか。そんな奴等のために、おまえが孤独な戦いを続ける必要がどこにある?』 うるさい! 僕は、僕の中の僕に叫ぶ。 すると、奴は戦法を変えてきた。 『見ろ。今、おまえの前にいる敵の姿を』 『こいつらも必死なんだ。おまえがこの戦いの果てに得ようとしているものを、己れの手中に収めようと』 『おまえと同じ苦しみに耐えている敵。おまえが救おうとしている者たちよりもずっと、おまえの苦しみを理解してくれている敵。こいつらに勝利して、おまえは何を得る? おまえの苦しみを知りもしない者たちの平和、安らぎ、幸福……。そんなもののために、おまえは、この哀れな敵たちを打ちのめそうというのか? 完膚なきまでに? 二度と立ち上がれないほどに? そんな残酷なことがおまえにできるのか? おまえは、こいつらにどんな恨みがあるというんだ?』 そんなこと、わかってる! でも、僕は戦わなくちゃいけないんだ! 僕は、見返りがほしくて戦うんじゃない。 人に感謝されたいわけでもない。 褒めてほしいわけでもない。 ……ほんとだよ。 君だって僕なんだから、この気持ちが嘘じゃないことくらいわかるでしょ? この戦いが、“よく戦いぬいたな”なんて賞賛の言葉がもらえるような戦いじゃないことを、僕が十二分に理解してるってことは。 僕は、自分から敵を作って、そして彼等を倒そうとしているんだから。 …………いいよ。認める。 僕は戦うことが好きなんだ。 自分から望んで、この戦いの場に来たんだ。 だって、僕は、戦うことしかできない。 そんなことしかできない片輪なんだ。 でも、そんな僕でも誰かの役に立つんだって、僕が戦いに勝利しさえすれば、その勝利の果てに僕が得るもので誰かが幸福になれるかもしれないんだって――そう思うことが何故いけないの!? そう思わなかったら、僕は生きていけないじゃない! 僕は、僕が生きていくために、ここに来た。 その結果が、僕以外の誰かをも幸福にするのなら、それは善いことでしょう? そうじゃないって言われたら、それは間違ってるって言われたら、僕だけじゃない、他の誰だって、誰かのために何かをすることはできなくなる。 そこまで自分を殺したら、人が生きて存在することは無意味になっちゃうよね? だから、僕は戦うんだ。 星矢も紫龍も氷河も兄さんも、僕の身を気遣って、僕を止めたけど……ほら、もうすぐこの戦いも終わるよ。 ひとりきりの戦いは初めてで、それがこんなに辛いことだとは思いもしなかったけど、でも。 ほら。 僕の戦いは、もうすぐ、終わる。 |