……死にゆく僕を見詰める氷河の頬は、痛ましいほど蒼ざめていた。 可哀想な氷河。 どうして僕は、今まで気付かなかったんだろう。 僕の欲しいもの。 氷河だけが持っているはずの、大切な秘密。 氷河はいつも、それを僕に与えてくれていたのに。 今頃気付くなんて、僕は本当に愚かだ。 もっと早く気付いていれば、 僕はもっと幸福になれたはず。 もっともっと氷河を幸福にできていたはず。 “可哀想な氷河” ――僕を失った氷河がこれから耐えていく、僕を失いかけている氷河が既に今も耐えている、悲しみと孤独の苦痛。 氷河を包むその痛みに僕自身が苛まれることで、僕は知った。 僕がずっと欲しかったもの。 降り注ぐ慈雨のように、いつも氷河が僕に与え続けてくれていたもの。 こんなにたくさん与えられていながら、僕が今までその存在に気付きもしなかったもの。 輝くような秘密。 それは僕の心の中にあった。 それを持っている僕は、いつも氷河の瞳に映っていた。 毎日氷河の瞳を覗き込んでいた僕が、なぜこれまでずっと、その秘密の輝きに気付かずにいられたんだろう。 「氷河。僕はずっと君が好きだったんだね」
それが手に入ったら、誰もが必ず幸福になれる、ありふれた秘密。 “人を愛している自分”
死の間際、 探し続け、求め続けていたものを、自分の心の内に見いだした僕は、自分の生を幸福に終えることができるのだろうか。 Fin.
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