『……氷河』


瞬が手を伸ばせば届く場所にいた時に、これほど激しく愛し合ったことがあっただろうか。

脱力し、瞬の棺に身体をもたせかけた氷河に、穏やかな声が降ってくる。

『氷河、アテナが聖域を出ることがあったら、またここに来て』


僕を愛して。
僕を一人にしないで。
僕を氷河のものでいさせて。
僕には氷河が必要なの。
氷河だけが僕を救ってくれるの。
僕は、氷河だけが欲しいんだ――。



瞬のその懇願の快さ。



瞬は以前は氷河だけのものではなかった。

兄のものだった。
仲間のものだった。
アテナのものでもあった。

瞬はすべての人を、人間というものを愛していた。


だが、今、瞬が頼るものは氷河だけなのだ。



僕に氷河を愛させて。
僕、氷河を愛していないと死んじゃうの。
氷河に愛されてないと消えちゃうの。

その声の哀しいまでに優しい響き。

























「ねえ、氷河。僕はもう氷河しか望まない。氷河だけがいればいい。僕たちだけの世界を作ろう? この地上を、僕たち二人だけのものにしてしまおうよ……」



















氷河にそう告げる声は、瞬のものでもハーデスのものでもない。
氷河自身の声だった。






Fin.







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