とにもかくにもそういうわけで、瞬たちがアイスランドから直行したのは、湘南江ノ島。
彼岸も過ぎて、海水浴シーズンもあと僅か。
江ノ島の海岸は、残り少ない夏を楽しめるうちに楽しんでおこうと、同じことを同じように考えた海水浴客たちで芋洗い状態だった。

実を言うと、青銅聖闘士たちはこんなところに来なくても、その気になれば、沙織個人の所有する世界各国のプライベート・ビーチのどこにでも行くことができたのである。

が、彼等は、
「でもさー、そーゆーとこだと海の家がなくて、かき氷も焼きソバも焼きトウモロコシもイカの丸焼きも食えないんだろー?」
という、至極尤もな星矢の意見に賛同し、混雑必至な江ノ島を、この夏最初にして最後の海水浴の場として選択したのだった。





「お、来たな」
「おーい、しゅーん、こっちだぞー!」

江ノ島海岸では、一足先にやってきていた星矢と紫龍が、海水浴の準備を万端整えて、瞬たちを迎えてくれた。
砂浜に二本立てられたビーチパラソルの下にはレジャーシートが敷かれ、アイスボックスの中にはきんきんに冷えた各種飲料水、サンオイルから日焼け止め、サングラスからビーチサンダル、装備はまさに完璧だった。


星矢たちは、一足先に海パンに着替えている。
星矢はピカチュウが大胆にプリントされたショート・トランクスタイプ。
紫龍は竹林模様のボクサーパンツ、である。

「わ、星矢の海パン、すっごく可愛い」
「だろ? 紫龍のもいいんだぜ。一見渋そうだけど、捜すと竹林の陰にパンダがいるんだな、これが」
「え、どこどこ」
「へへへ〜。ここ」


(えー。星矢が指差した場所がどこなのかは、とりあえず割愛させていただきます)









「あ、で、沙織さんが用意してくれた僕たちの水着ってどこにあるの?」

気を取り直した瞬は、取ってつけたような笑みを顔に貼り付けて、星矢に尋ねた。

「あ、タオルと一緒にここに持ってきてある。そのバッグの中に入ってるから、どっかの海の家に行って着替えて来いよ」
「うん、ありがと、星矢」

星矢と瞬のやり取りを聞いていた氷河は、ぬかりなく用意してきた瞬用のタオル地パーカーをどこからともなく取り出したのだが、次の瞬間、彼は、その手からパーカーを取り落とすことになった。


原因は、星矢の指し示した、ドラエもん模様のビニールバッグの中から出現した3枚の水着――。

すなわち。

身体に思い切りジャストフィットする布地でできた、黒い、超の字がつくビキニパンツ。

ショッキングピンクとは言い得て妙、ジョギングスタイルの桃色パンツ。

そして、トドメが、時代錯誤としか言いようのない、紺と白のストライプのワンピース。

――である。



「…………」
「…………」
「…………」



かくして、氷河、一輝、瞬の三人は、彼等が女神と戴くアテナ・沙織の趣味に深刻な不信感を抱くことになったのである。
沙織が普段身に着けているTPO無視のピンクフリル付き白いロングドレスを思い起こせば、沙織のセンスに信を置くなど、最初から無茶無理無体というものだったのだが。

とりあえず、彼等三人は、この先の人生で、例え何が起ころうとも、どんな障害があろうとも、水着だけは自分で買いに行くことを決意したのだが、それはいつか訪れる未来のこと。


問題は今現在この時である。





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