幸福のさなかにあって悲哀の情緒を求めるような詩。 甘美な悲しみと幸福とを謳った美しい詩。 その、流れるような詩の旋律に、氷河は気鬱を覚えた。 「甘ったるい少女趣味な詩だな」 氷河の身も蓋もない冷評に、瞬は薄く微笑した。 「ふふ。彼はね、『風と花と雲と小鳥、彼の詩の材料はこれに尽きる』って言われてた詩人なんだ。やさしくて綺麗で甘くて切ない詩を書く人なの」 「――そんな詩が好きなのか、瞬、おまえ」 瞬が好きだと言うものならば、氷河は、自分も好きだと言いたかった。 しかし。 この詩は――。 「詩が運命に似たのか、運命が詩に似たのか……早くに死んだんだよ。24歳…かな。今の氷河と大して変わらない」 「ああ。夭折したから、実際以上に評価されているわけだ。よくある話だな」 「…………」 瞬は、氷河のその酷評を、まるで聞いていないようだった。 静かな微笑で、瞬は氷河に答えた。 「人の魂の中の無残なものを、とてもとても綺麗な詩にして……腐敗する瞬間も与えずに永遠のものにしたの。自分の死によって」 「瞬!」 氷河は、それ以上、瞬の穏やかさに耐えられなかったのである。 室内にあふれかえった、まだ夏の名残りをとどめる真昼の光の中で、人間であることを忘れたかのように、指を、髪を、唇を絡ませ、互いの肌を傷付け合うような愛撫に二人して歓喜していたのはほんの数時間前のことだったというのに。 それまで、好きだと告げたこともなかった。 口付けを交わしたこともなければ、そもそも互いの肌に触れることを考えたことすらなかった。 おそらくは二人ともが、自分の恋する人が自分を恋してくれている可能性に思い至ったこともなかっただろう。 自分の中にある思いに夢中で、その他には何も――自分が恋しているその人をさえ見ていなかった。 それが、 ふと顔をあげてみると、 自分と同じように人を恋している目があって、 その瞳が自分を見詰めていたのだ。 ずっと恋し続けていた人が、 同じ思いをその瞳にたたえ、自分を見詰めていたのだ。 それまで、気付かずにいた。 気付こうともしなかった。 だが。 知った途端に。 知ってしまったその瞬間には、 自分を抑えることなど思いもよらなくて。 我に返ったのは、真昼の光の中で互いに互いを貪り合った後だった。 どうして今までこうすることなしにいられたのかが不思議なほど、 砂漠の乾いた砂が水を求めるように際限もなく、 欲しくて欲しくてたまらなくて――。 |