瞬は、目許に微苦笑を浮かべて自分をじっと見おろしている氷河の青い瞳を見詰め返した。
信じられないわけではない。
初めて『おまえが好きだ』と言ってくれた時の氷河の瞳と、今の氷河の瞳との間に、瞬は、毛ほどの違いも見つけられなかった。
あの時の氷河を信じられた瞬に、今の氷河を信じられないわけがないのだ。

「うん……。ごめんなさい」

瞬の謝罪は、自分がしでかした暴挙よりも、自分が氷河を信じきれなかったことへの謝罪だった。
最初は針の先ほどの大きさもなかった小さな疑念が、人の心の中で、こうまで大きな不信に変わることに、その恐ろしさに、瞬は身震いした。

「いや……。悪いのは俺の方だ。俺がこんなにおまえを好きでいるんだから、おまえが俺を疑ったりするはずがないと勝手に思い込んでいた。気持ちは行動ででも言葉ででも伝えなければ伝わらないものなのに」

それを積み重ねていって初めて、人は言葉がなくても信頼し合える次元に到達するのである。共に辛い闘いを闘い抜いてきた仲間たちの間に、死に直面してさえ揺るがない信頼が培われるように。

瞬が、仲間としての氷河をなら信じることができるのに、恋人としての氷河を信じきることができなかったのは、おそらく――言葉や他の感情が追いつけなかったせいなのだ。
あまりに急速度で先を急ぐ、恋の感情に。



初めて自覚した自分の恋心の幼さに俯いてしまった瞬の髪に、氷河が手をのばす。
今度は、その手は振り払われなかった。

「いや、しかし、あのチェーンのおかげでいいことを思いついたぞ」
「なに?」
「おまえが俺の胸でぐるぐるする方法」
「……どんな?」

筆者であるところのきゃわにさえ思いつかなかったものを思いついたというのなら、氷河こそが氷河×瞬のサイトを開設すべきである。

「試してみるか?」

にやりと意味深に笑う氷河に、瞬は一瞬ためらった。
なにしろ自分が氷河の『胸でぐるぐる』している状態が、まるで想像できないのだ。

が、今の瞬は氷河を信じたい気持ちでいっぱいだったので(それとこれとは話がちがーう!)、彼はすぐに氷河に頷き返した。

「うん!」


――信じる者は救われる。
そして、信じる者だけが、幸せになれるのである。







それから氷河と瞬は、まだ陽も高いところにあるというのに、早速、二人の監禁室で、『胸でぐるぐる』の実践に挑んだ。
当然、氷河は、そこで、十二分に瞬の信頼に(?)応えてくれたのである。

瞬は、思い切り氷河の胸でぐるぐるさせられ、文字通りめくるめく時を過ごした。

それがどういう状態だったのかは、氷河と瞬、二人だけのひ・み・つ♪ である。






――と、卑怯の限りを尽くして  Fin.






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