さて、一応、近未来ストーリーであるから、メイドロボの発注は双方向テレビ電話などというもので行われる。 氷河はとりあえず、メイドロボの購入先として、グラード・メイドロボ・コーポレーションを選択した。 グラード・メイドロボ・コーポレーションは業界シェアトップの企業であり、品質も保証されている。 何より氷河と瞬は財団総帥・城戸沙織の身内であり、グラード財団企業グループ配下の数社の大株主。 氷河は、グラード・メイドロボ・コーポレーションに、株主優待サービスで最高の機能を備えたメイドロボを融通させようとしたのである。 「初めて? メイドロボのご購入が初めてなのですか? 今時?」 モニター画面の向こうに映る男は、さすがに自社の大株主が相手とあって、ロボットではない。人間であるが故に、失言もすれば失態も演じる。 仮にもグラード・メイドロボ・コーポレーションの大株主が当の自社製品を使っていないという事実を知らされて、彼は呆れたような顔になった。 氷河は無論、(瞬に関わること以外では)大らかな男なので、彼の失言を咎めだてはしなかった。 氷河にとっては、なにしろ、どーでもいいことなのだ、そんな男の失言など。 「ああ、最高の機能を備えてて、なるべくセックスアピールの希薄な、あまり邪魔にならないやつがいい」 「それでしたら、うってつけのものがございます! まだ発売前の試作品なのですが、株主優待で特別にお世話いたしましょう!」 「試作品? 大丈夫なのか?」 試作品という名の欠陥品など掴まされては、氷河としてもたまらない。 欠陥が露見しても株主が自社製品の欠陥を吹聴してまわるはずがないと、甘く見られているのではないかと、氷河は画面の向こうの男に疑念を抱いた。 「試作品と申しましても、機能上の問題は全く問題ございません。ただ、あまりに高度な機能を数多く持たせすぎまして、値段設定に苦慮しているのでございます。これだけの機能を備えたメイドロボに見合った値段と申しますと、それこそ、当社の標準的メイドロボが30体は買えてしまうような値段を設定しなければならず、それで商売になるのかと、経営会議でも揉めておりまして……。いかがでございましょう? ご購入ということではなく、モニター使用ということで、お使いいただけませんでしょうか? 会社側も、実際にお使いになるユーザー様のご意見は尊重して経営方針を決めたいと存じますし、今回ご紹介のメイドロボは富裕層を狙っておりますので、城戸様のようなお客様にモニターになっていただけましたら、当社としても光栄の極みにございます!」 近未来だろうが、江戸時代だろうが、商売人の口数が多いことに変わりはない。 画面の向こうの男は、氷河が、 「高度な機能? まさか、アダルト向け機能付き・男女両用四十八手すべてOK、なんてのじゃあるまいな」 などと言うのに、 「とんでもございません! そのようなものは、当社にシェアを奪われた弱小企業の悪あがき製品でございます。今回ご案内しているメイドロボは、そのような機能は全く備えておりません。男性型でも女性型でもなく、性別SHUN。あ、当社では男性型でも女性型でもない商品をSHUN型と呼ぶのでございます。これは大変小型化されておりまして、置き場所にも困らず、家事全般大変有能です。お気に召しませんでしたら、すぐに返品してくださって結構です。モニターと言っても簡単なもので、お使いになってみて、そのタイプのメイドロボが使えると思うか使えないと思うかだけ、ご返答くだされば結構でございます。もし、お気に召しましたら、もちろんそのメイドロボはお客様に贈呈いたしましょう」 と、5倍の言葉を返してくる。 「…………」 どこか胡散臭いような気はしたのだが、即日返品可ということでもあるし、商売人の口数の多さに負けた格好で、結局氷河はその最新型メイドロボのモニター使用を承諾したのである。 「ごめんくださ〜い! グラード・メイドロボ・コーポレーションからやってまいりました〜 !! 」 そうして、翌日、氷瞬家――瞬好みの前世紀的趣をたたえた広い庭付き一戸建てである――の庭先にやってきた、最新型超高性能メイドロボ。 その姿を見て、氷河と瞬は唖然とした。 グラード・メイドロボ・コーポレーション製最新型超高級メイドロボは、その背丈が瞬の人差し指にも満たない超小型ロボットだったのである。 |