愛あればこそ

〜さかきさんに捧ぐ〜






闘いに明け暮れたかつての日々は過ぎ去って、城戸邸に起居している青銅聖闘士たちは最近平和に食傷気味。
自分たちの生きる糧が闘いだったとは思いたくないが、闘いのない毎日が退屈で仕様がないのは、厳然たる事実だった。


「あーあ、退屈だなぁ…」
星矢などは特に、その退屈が苦痛で仕方がないようだった。朝起きて、朝食を済ませると早速お決まりのセリフをぼやく。

「甘いものほど、とりすぎるとすぐに飽きがくる――とシェイクスピアも言っているからな。“平和”という甘いお菓子は、俺たちの口には合わないようになってしまったのかもしれん」
青銅聖闘士の中では分別のある方の紫龍までもが、星矢に同調する。

もっとも、聖闘士になって、ケーキ屋のないアンドロメダ島から日本に帰国し、甘いお菓子に夢中になってなってしまった瞬と、生きる糧が“闘い”ではなく“恋”の氷河は、
「そうかな。僕は今の平和が嬉しいけど」
「俺も全く不満はないぞ」
といった調子で、この平和に食傷した気配もなかったが。


いずれにしても、それが平和だろうがケーキだろうが恋だろうが、とにかく、城戸邸には甘いものが満ちていたのである。
そこで生活する者たちに、その甘さにうんざりしている者、溺れている者の違いはあったとしても。





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