さて、その頃、きゃわは……。

さらってきた9号が心細げにしているのを慰めるために、テーブルの上にずらりとケーキを並べていました。

「そう、9号ちゃんて言うの。可愛いわねぇ」
「僕、みんなのとこに帰りたいの」
「9号ちゃん、そんなこと言わないでケーキ食べて? ほんとに可愛いわねぇ」
「みんながとっても心配してると思うの」
「あんなにたくさん仲間がいるんだから、きっと平気よ。つくづく可愛いわねぇ」
「そんなことないよ。みんな、僕のこと心配してるよ」
「そうかもしれないけど、ここにいたら、9号ちゃんひとりでケーキ食べ放題よ? どうしてこんなに可愛いのかしら」
「ケーキはみんなで食べるからおいしいんだよ」
「だとしても、ここにいましょうね。こんなに可愛いんだから」


そんなふうに、きゃわと9号がまるで噛み合わない会話をしていた時。

突然、
「邪魔するぞ」
と言って、きゃわの家に入ってきたのは、両肩にメイドロボたちを乗せた氷河です。
その後ろには、きゃわの憧れの瞬もついてきていました。

(あああああっ、瞬ちゃんっっっ !! )

夢にまで見た瞬の姿に、きゃわは言葉も出てきません。
ついでに、怒りに燃えている氷河が恐くて、きゃわはその場に立ちすくんでしまいました。

きゃわが硬直してしまった訳がわかっているのかいないのか、誘拐犯の後ろのテーブルの上に9号の姿を見つけた氷河は、メイドロボたちをテーブルの上におろしてやったのです。


「9号〜〜っっっ !!!!!! 」
「9号、心配したんだよっ!」
「9号、ひどい目に合ってなかったっ !? 」
「氷河様と瞬様が、9号の居場所をつきとめてくださったの」
「ほんとにほんとに心配したんだよぉ〜っっ !!!! 」
「あーん、あーん、あーん。9号が見つかってよかったよぉー !! 」

「みんなっ !!  やっぱり来てくれたんだねっ!」

氷河がきゃわを責める前に、きゃわが警察を怖れて逃走する前に、メイドロボたちは嬉し泣きに泣きながら、早速その場で『僕等は仲良し、いつでも一緒』のダンスを踊り始めたのです。

「わぁ、メイドロボちゃんたち、相変わらず上手だねぇ」
メイドロボたちのダンスを見て、瞬も心配顔を引っ込めて、すっかりにこにこ笑顔。

「…………」
瞬の笑顔とメイドロボたちの喜びのダンスを見て、氷河もまた、誘拐犯のことなどどうでもよくなってしまいました。

「まあ、9号も見つかったんだし、どうでもいいか、こんなオンナのことなんて」
本当は氷河は、きゃわを営利誘拐とスパイ容疑で警察に突き出すつもりでいたのですけれど。

「貴様、今度こんなことをして、俺の瞬とメイドロボたちを泣かせてみろ。警察に突き出す前に、俺が貴様を闇から闇に葬り去ってやるからな」

「しゅ…瞬ちゃんと9号ちゃんの仲間たちが泣いていたの……?」
そんな話を聞かされて、きゃわが平気でいられるはずがありません。
9号のあまりの可愛さに、ついふらふらと誘拐の罪を犯してしまったきゃわでしたが、彼女は決して瞬やメイドロボたちを悲しませるつもりでそんな大罪を犯したわけではなかったのです。

「ご……ごめんなさいっっ !!  9号ちゃんがあんまり可愛かったもんだから、私、我慢できなかったのっ! 瞬ちゃんや9号ちゃんの仲間たちを泣かせるつもりなんて、私、少しもなかったの! いつも近くで9号ちゃんを見ていたいって思っただけだったのよっ !!  わーん、わーん、わーん !!!! 」

自分の犯した罪の重さに号泣するきゃわに、9号は優しく言いました。
「僕、きゃわさんを恨んでません。だって、きゃわさんは僕たちにおいしいケーキをくれたもの」

見れば、ひとダンス終えたメイドロボたちは、みんなで、きゃわの用意していたケーキを頬張っています。
きゃわに優しくそう言ってくれた9号の口許にも、ちょっとだけクリームがついていました。


それまで号泣していたきゃわまでが、メイドロボたちの可愛らしい様子に思わずほにゃら〜☆ と顔を緩めてしまったのでした。






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