「おっきい瞬ちゃん……それはなぁに?」 氷の国星の小人たちは、不思議なものを見るような目で、メイドロボたちの前に出現したプリンをじっと見詰めながら、瞬に尋ねました。 「これはプリンっていうの。地球ではおやつの定番なんだよ」 瞬の説明を聞いた小人たちが、まるで夢を見ているみたいにうっとりした表情になります。 「プリン……」 「ぷりぷりでつややかで……」 「名は体を表すの言葉通りだね」 「甘いのかな」 「きっと甘いに違いないよ」 「おいしそうだね」 「うん、とってもおいしそうだね」 氷の国星の小人たちの視線は憧憬の眼差しから羨望のそれに変わり、そして、彼等の視線はやがて、熱い欲求の色をたたえたものになっていきました。 氷の国星の小人たちの熱い眼差しは、もしプリンがメイドロボたちだったなら、見詰められることに痛みを感じるほどの激しさを持っていました。 我慢の限界に来た氷河が瞬を見詰める時の眼差しより、情熱的でした。 「氷の国星の小人さんたち、よ……よかったら召し上がりますか?」 その眼差しの意味するところは、おそらく、生まれたばかりの赤ちゃんにだってわかったことでしょう。 メイドロボの勧めを受けた氷の国星の小人の一人が、 「えっ、ほんとにいいの !? 」 と、瞳を期待で輝かせます。 けれど、彼には、すぐに仲間からのストップがかかりました。 「だめだめ! こういう時は、一応エンリョしないといけないんだよ」 「ずうずうしいのはヒンシュクだって、いつも氷河が言ってるもんね」 「……というわけで、ほんとにご好意は喉から手が出て思わずそのプリンを食べちゃいたいくらい嬉しいんですけど、どうぞ僕たちにかまわず食べて下さい」 「僕たちのことは、お気になさらずに……。実はとっても食べたくてプリンにとびかかってしまいたい衝動を押さえるのに必死だということは、素振りにも出しませんから」 「プリンが気になって気になってついつい見てしまわないように、目をふさいでますから」 「匂いも気にならないように、鼻もふさいでおかないと」 ここまであからさまに礼儀正しい(?)小人たちの前で、 『じゃ、僕たちだけでいただきまーす!』 などと言うことのできるメイドロボたちではありません。 そんなことをしたら、氷の国星の小人たちは、悲鳴をあげ、大泣きに泣き、最悪の場合には悶死してしまうかもしれませんでしたからね。 「……瞬様、このプリンを氷の国星の小人さんたちに食べてもらってもいいですか?」 「メイドロボちゃんたちがいいなら、かまわないけど……」 メイドロボたちの、いかにもメイドロボたちらしく優しい申し出に、瞬は思わず微笑んでいました。 「僕たちは今まで何回もプリンを食べたけど、氷の国星の小人さんたちは食べたことがないんだもんね」 「うん、こんなおいしいものを知らないなんてお気の毒だよね」 「氷の国星の小人さんたち、どうぞ、プリンを食べてください」 メイドロボたちにそう言われた氷の国星の小人たちの瞳が、きらきらと、お星様のように輝きます。 「2度目のお勧めだよ」 「重ねての申し出があったら固辞せず、ありがたくご厚意を受けなさいって、氷河が言ってたよね」 「そうだよねっ!」× 15 ここでプリンを食べるのは、とてもお作法に適ったこと。 むしろ、頑なに遠慮することの方が失礼なのです。 そう結論が出ると、氷の国星の小人たちは嬉しくてなりませんでした。 「では、エンリョなくいただきま〜す!」× 15 隊列を整えるのも忘れるくらいでしたから、氷の国星の小人たちのプリンへの欲求は、かなり切羽詰ったものだったのでしょう。 その欲望の激しさは、氷の国星の小人たちがプリンを食べる速さからも、容易に推察できました。 氷の国星の小人たちは、メイドロボに譲ってもらったプリンを、それこそ、『あっ』という間もないくらいの時間で、すっかり綺麗に平らげてしまったのです。 |