「たれたれさんちに来てから、氷河、何だか変だよね?」
「うん、変だよね」
「瞬きしない時間、最長記録に挑んでるのかな?」
「おなかが痛いのかもしれないよ?」
「顔面神経痛になっちゃったんだよ、きっと!」
「えーっ、それって、笑いたいのに笑えない病気〜??」

最初のうちはそんなふうに、ちょっと的外れな心配をしていた小人たち。

けれど……。



氷の国の氷河は必死でした。
一生懸命でした。

いい男になって、小人たちを魅了して、氷の国に帰国しても小人たちが寂しがらないようにしてやりたいと、心底から一途に思っていました。
ですから、少しでも早く、無口&クール&セクシーを体得するために、氷の国の氷河は朝から晩までたれたれ氷河さんを見詰め続けたのです。

氷の国の氷河があんまり熱心にたれたれ氷河さんを見詰めてばかりいるので、小人たちは真剣に不安になってきてしまったのでした。


「ねえ、氷河ったら、たれたれ瞬ちゃんちに来てから、毎日ずっと、たれたれ氷河さんばっかり見詰めてると思わない?」
「うん……。朝から晩まで、たれたれ氷河さんばっかり熱い眼差しで見詰めてるね」

「いったい、どーしてなんだろう」
「僕たちより、たれたれ氷河さんを見てることの方が多いよね」
「前は、いつだって僕たちのことを見ててくれたのに……」

いつも明るく元気な小人たちの頭の上に、なんだか重苦しい暗雲が立ちこめてきました。
小人たち全員の胸で不吉な予感が渦巻いていたのですが、それを口にする勇気が湧いてきません。

けれど、ついに、その沈黙に耐え切れなくなった小人が一人、その不吉な考えを言葉にしてしまったのです。
「ねぇ。氷河はもしかしたら、僕たちより、たれたれ氷河さんの方を好きになっちゃったんじゃないかしら……?」

「そ……そんな……! そんなことあるはずないよ! 僕たちと僕たちの氷河は堅く強い絆で結ばれてるはずだもの!」
即座に反論が出ましたが、それも虚しいものでした。

「でも……じゃあ、他にどんな理由があるの?」

「そっ…それは………(どよ〜ん)」× 14

その答えは、小人たちにはわかりません。
わかるはずもありませんでした。