決して諦めない氷の国の氷河が、愛の成就のためにしたこと。

それは、たれたれ瞬ちゃんに送ってもらったレシピを参考に、一生懸命ケーキを焼くことでした。
氷の国の氷河はお裁縫もお掃除も炊事も得意でしたが、ケーキに関しては素人でした。
それまでにもせいぜい、出来合いのお粉を買ってきてパンケーキを焼くくらいしかしたことがなかったのです。


けれど、氷の国の氷河は頑張りました。
氷の国の氷瞬城のキッチンをめちゃくちゃにして、オーブンを3回くらい爆発させ、ケーキのスポンジを5回くらいぺしゃんこにして、それでも頑張りました。

そして、根性でもって、何とか見れる程度のケーキを作りあげることができたのです。
難事業をやり遂げた達成感を噛みしめながら、氷の国の氷河は、小人たちをダイニングテーブルの上に集合させました。

「さあ、おまえたち。合体して、このケーキを食べてみろ。たれたれ瞬ちゃんのケーキだぞ。きっといいことがあるぞ」
「わーい、たれたれ瞬ちゃんのケーキだー !! 」× 15

小人たちは、おやつの時間にはまだ間があるのに突然出現したケーキに大喜び。
なぜ、たれたれ瞬ちゃんのケーキがここにあるのかなんて深いことは考えずに、氷の国の氷河に言われるまま合体しようとしました──したのですが。

「ちょっと待って!」
突然、9号が、仲間たちに合体中止命令を発令したのです。

「え? どうかしたの、9号?」
「これは、たれたれ瞬ちゃんのケーキじゃない!」

「えええええっ !? 」× 14

「だって、よく見て! このスポンジ、がちがちに固いよ!」
「あ、ほんとだ! カスタードも卵とミルクが分離してる!」
「生クリームなんかでろでろだし」
「お飾りイチゴにお砂糖が振られてない〜っっっ !! 」

何ということでしょう。
小人たちは甘いものになら何にでも飛びつくというわけではなかったのです。
小人たちには、甘いものフリークとしての高い理想と厳しいより好み、そして、優れた鑑識眼があったのでした。

「これは偽物だ……!」
9号は、とても深刻な顔で断言しました。

「たれたれ瞬ちゃんのケーキの偽物だよっっ !! 」

「あ……あああぁぁぁ……」

やはり俺のケーキじゃダメなのかと、氷の国の氷河ががっくり肩を落とした横で、小人たちは険しい顔で失敗ケーキの検分を始めていました。
たれたれ瞬ちゃんのケーキを騙るなんて、小人たちには神をも怖れぬ大罪だったのです。

「いったい、誰がこんなことを……!」

「あ…それは俺が……」
『作ったんだ』と言おうとした氷の国の氷河は、けれど、

「僕たちだけならともかく、僕たちの氷河まで騙すなんて許せないよっ!」
という4号の鋭い声に遮られてしまいました。
これは、どう考えても、真実を告白できるムードではありません。

「僕たちの大事な氷河を騙す人がいるなんて…… !! 」
小人たちは全員、悔し涙を流しています。

「あぁぁぁ……」
氷の国の氷河は、なんだか自分が小人たちにものすごーく愛されているような気はしてきましたが、辺りには、それを素直に喜んでもいられない険悪な雰囲気が漂い始めていました。