「みんな、準備はできた?」 ホスト氷の国の氷河のお給金のおやつを抱えて、小人たちはテレビの前に陣取りました。 今日はこれから、テレビで『ミスターまりっこ』の特番があるのです。 氷の国の小人たちは、最近、世紀のスーパーマジシャン『ミスターまりっこ』に夢中でした。 「今日はどんなハンドパワーなんだろうね」 「わくわくするね」 「こないだやったの、すごかったよね」 「うん、まるで夢みたいだったね」 「ミスターまりっこって、まさに僕たちの夢だよね」 「理想だよね」 「あっ、始まったよ!」 番組が始まると、テレビの前で居住いを正した小人たちは、食い入るようにテレビ画面を見詰めだしました。 派手な番組タイトルロゴが出て、ミスターまりっこのテーマが流れる中、ミスターまりっこがスモークの中から登場です。 まりっこは、今日も、トレードマークの長いマントと黒いサングラス姿でした。 「ぱちぱちぱちぱち〜」× 15 小人たちも番組観覧者と一緒に、拍手でまりっこをお出迎え。 小人たちの心は、ミスターまりっこショーの収録スタジオに飛んでいました。 「まりっこさん、今夜は一体どんな不思議を我々に見せてくれるんですか?」 司会者に尋ねられたまりっこは、黒いサングラス越しににこやかに微笑んで、用意されていたビスケットを手に取りました。 「これを見てください。これは普通のビスケットです」 「確かに、よくあるビスケットですね」 「これを使って、今夜最初の奇跡をお目にかけましょう」 ここで、アシスタントの女性がスタジオの中央にテーブルを運んできました。 テーブルの上にはお皿が2枚乗っています。 「まず、お皿を確かめてください。どこにでもある普通のお皿ですね」 「確かに、よくあるお皿ですね」 「この右のお皿にビスケットを置きます。これに私のハンドパワーを注ぎますよ」 まりっこがビスケットの上に手をかざして気合いを入れだすと、小人たちも気合いが入ります。 「はんどぱわ〜〜」× 15 小人たちは、小さな手を画面に向けて、まりっこと一緒に、ビスケットにハンドパワーを送りました。 「はい、では2枚のお皿に蓋をします。いきますよ、1・2・3!」 何ということでしょう! まりっこがお皿の蓋を取ると、右のお皿の上にはビスケットよりもずっといいものが載っていたのです。 「はい。ビスケットがショートケーキに変わりました」 「おおおおおお〜〜っっ!」× 15 目の前で起こった奇跡に、小人たちは大きくどよめきます。 もちろん、驚いているのは、小人たちだけではありません。 「いったい何が起こったと言うんでしょう !? 目の前で見ていましたが、まさに一瞬の出来事でした !! 」 まりっこのハンドパワーの奇跡をじかに見ている司会者の声も、かなり上擦っています。 けれど、まりっこの奇跡は、それだけでは終わりません。 「まだです……。見ていてください」 再び、まりっこがショートケーキに蓋をして開けてみると、今度は――。 「おおおおおおおおおお〜〜っっ !!!! 」× 15 「はい、ショートケーキがデコレーションケーキになりました」 とてつもない奇跡を起こしているというのに、ミスターまりっこの表情にはまるで得意げなところがありません。 代わりに、司会者が大興奮です。 「すごい! 本当にすごいです! わたくし、すぐ側で見ておりますが、全然仕掛けがわかりませんっ !! 」 「ハンドパワーです。左のお皿の方にも、何かが起こってますよ」 ポーカーフェイスのまりっこが、今度は、左のお皿の蓋に手を伸ばします。 まりっこが、左のお皿を覆っていた蓋をどんどん上に持ち上げていくと――。 「ああああああああああああ〜〜っっ !!!!!! 」× 15 「すごい! これはすごい! 天に向かってそびえ立つウェディングケーキが出現しましたーーーーーーっっっっ !!!!! 」 小人たちの歓声に、まるでプロレスの実況中継をしているような司会者の絶叫が重なります。 そして、それでも、まりっこのポーカーフェイスは崩れないのでした。 「今日、そちらのスタッフの方がご結婚されたと聞きましてね。私からのお祝いの気持ちです」 「素晴らしい! ハンドパワーもすごいですが、まりっこさんのお心遣いが嬉しいではありませんか! それでは、おめでたいムードの中、お別れです。まりっこさん、ありがとうございました! 皆さん、次回の奇跡をお楽しみにー !! 」 最後の最後まで、ミスターまりっこショーの司会者は興奮気味。 その興奮は氷の国の氷瞬城にも届き、小人たちを含めたお城全体が、まりっこの奇跡の技に酔っているようでした。 |