「……なるほど」

小人たちの切なる望みを聞いたまりっこが、考え深げに頷きます。

「お願いします。氷河にはんどぱわーを教えてください!」
「お願いします !! 」× 15

番組収録に使う予定の巨大ケーキの残骸だけが残るお皿の前に一列横隊に並んだ小人たちは、まるでドミノが倒れていくように、ミスターまりっこに頭をさげてお願いしました。

まりっこが、そんな小人たちを、少々複雑そうな表情をして見詰めます。

まりっこには、小人たちの願いをきいてやることはできませんでした。
まりっこのハンドパワーは、種も仕掛けもあるものでしたから。

まりっこは、けれど、小人たちの夢を壊すこともできませんでした。
ハンドパワーを心底から信じてくれている純真なファンに、本当のことなんか言えるはずがありませんからね。


──ショービジネスの世界は、なかなかに生存競争の熾烈な世界です。
その世界で大成するためには、汚いことや卑怯なことの一つや二つはあたりまえ。
まりっこだって、今の人気を築くために、あまり人には言えないようなこともしてきました。

けれど。
そんなオトナのまりっこでしたけれども──。

ハンドパワーの奇跡を信じてここまでやってきてくれた、澄んだ瞳の小人たちに嘘をつくのが、まりっこはとても嫌だったのです。
嫌なのに、嘘をついてこの場をしのがなければならない自分が、ちょっと切なくもありました。


もちろん、それでも、まりっこは、やっぱりオトナでしたけれどね。
「……小人さんたちの気持ちはよくわかったよ。でも、ハンドパワーは習って使えるようになるものではないんだ。さっき、奇跡の力だって言ってくれたね。そのとおり、ハンドパワーは生まれながらにして持っているものなんだ」

「じゃあ……生まれつき はんどぱわーの才能のない氷河は、いくら修行しても、はんどぱわーを使えるようにはならないの?」
いつも元気な小人たちの中でも特に元気な9号が、半分泣きそうな目をして、まりっこを見上げ、尋ねました。

「そうだね。みんながハンドパワーを使えるようになってしまったら、私の出る幕がなくなってしまうよ」
まりっこが苦笑しながら、そんな9号に答えます。


まりっこの答えを聞いた小人たちは、
「はぁぁぁ〜……」× 15
と、切ない溜め息を15個同時に洩らしたのでした。






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