小人たちが好きなのは、一生懸命真面目に働く男。

そうと悟ったペルセウス特急便のおにーさんが、トラックの荷台から氷瞬城の玄関先まで、ケーキを運び始めた時でした。
ふいに、氷瞬城の奥の方から、不気味な影が現われたのは。

それは、3ヶ月間ぶっ続けで、某王室から依頼のあった100畳大タペストリーの刺繍をしていた氷の国の氷河の、へろへろへ〜になった姿でした。

「おまえたち……ついに、タペストリーが完成し……」
と言いかけたところで、ペルセウス特急便のおにーさんに気付いた氷の国の氷河は、
「あー、どちらさまでしょう?」
――と、間抜けな挨拶(?)をしました。

ペルセウス特急便のおにーさんはといえば、氷の国の氷河のどこが死ぬほどカッコいいのかがわからないせいで、氷の国の氷河の誰何に答えることもできません。
氷の国の小人たちの男の趣味が、今いち、ペルセウス特急便のおにーさんには理解しかねたのです。

けれど、今の氷の国の氷河には、自分に向けられる疑惑の眼差しなど、どうでもいいことでした。
小人たちと10メートル巨大ケーキの約束をしたあの日から苦節3ヶ月、自分の持てる力のすべてをつぎ込んでいた一つの大きな仕事が、ついについに完成したのですから。

「いや、もう、誰でもいい、とにかく仕事が終わ……」
小人たちとの約束を果たすために、これまで氷の国の氷河を生かし続けてきた根性も、けれど、ここが限界でした。
氷の国の氷河は、小人たちに仕事の完成の報告を終える前に、ばったーん★ と、その場に倒れてしまったのです。

「氷河―っっ !! 」× 15
突然倒れてしまった氷の国の氷河の側に、わらわらわらと駆け寄った小人たちは、氷の国の氷河の名前を呼んで、氷の国の氷河の身体を一生懸命に揺さぶりました。
けれど、氷の国の氷河の身体はぴくりともしません。

「い……石になってる……」
「え?」
「僕たちの氷河が、石みたいにがちがちになってるよーっっ !! 」

何ということでしょう。
一つの仕事を成し終えたことで、それまで張り詰めていた気力が途切れてしまったのでしょうか。
地面に倒れた氷の国の氷河は、メデューサの顔を見せられたどこかの海獣のように、ガチガチのコチコチ。

小人たちは、この緊急事態に大慌てです。
「氷河―っっ !! 死なないでーっっ !! 」× 15

氷の国の氷河は、まるでパブロフのわんころの条件反射のように、小人たちの泣き声で意識を取り戻しました。
そして、蚊が鳴くように小さく力無い声で、小人たちに言いました。
……おまえたち、大丈夫だ。俺がおまえたちを置いて死んだりなんか……

けれど、氷の国の氷河の意識が戻ったのもほんの一瞬のこと。
氷の国の氷河はすぐにまたへろへろへ〜と意識を途切れさせてしまったのでした。






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