ところで、ペルセウス特急便のおにーさんは、小人たちが合体できるということを知りませんでした。

そして、ここからは、お約束の展開の始まりです。


初めて合体瞬と出会ったその日から、恋の花咲くこともある。

そう。
ペルセウス特急便のおにーさんは、合体瞬に一目惚れしてしまったのです。
ペルセウス特急便のおにーさんの心の中は合体瞬の事で満杯状態、氷の国の氷河など、目にも耳にも入りませんでした。

「君は……」
「あ、ペルセウス特急便のおにーさん! ごめんなさい、荷物の用意はまだできてないの」
「いや、それは全然構わないんだが、君はいったい――」
「あ、僕、瞬です。(この姿では)初めまして」
「瞬。俺と一緒に石の国へ来てくれないか」
「え?」

お約束の展開に、くどい説明は不要です。
100畳大タペストリーに巻き込まれ、
(なななななな〜〜っっ !!?? )
――と慌てる氷の国の氷河の存在を無視して、ペルセウス特急便のおにーさんはさっさと話を進めていきます。

「ペルセウス特急便の配達員とは、世を忍ぶ仮の姿。俺は、石の国の勇者ペルセウス座のアルゴル!」
言うなり、ペルセウス特急便のおにーさんは特急便の制服を脱ぎ捨てて、凛々しい勇者スタイルに早変わり。

合体瞬も氷の国の氷河も、この展開にびっくりして、ただただ目をみはるばかりです。

「なぜ配達員の仕事をしていたかというと、この仕事は、色々な所に行って色んな人間に会う機会が多い仕事だからだ。そして、その目的は『理想の配偶者探し』だったのだ。瞬、君は、まさに俺の理想の人だ。俺と一緒に石の国へ来てくれ!」

「で……でも、僕には氷河が……」
「あいつにはもう、可愛らしい坊やちゃんたちがいるじゃないか。それだけでも贅沢すぎるほどの贅沢というものだ。あんなゴミはほっといて、さあ、行こう!」

言うが早いか、アルゴルは合体瞬の手を取り足を取り抱き上げて、特急便のトラックに連れ込み、あっという間に車を発進させてしまいました。
さすがは石の国の勇者です。
その隙のない身のこなしは、実に鮮やか、かつ迅速でした。

いつもは機転がきいて動作も機敏な小人たちも、合体している時の運動速度は普通の人間並み。恋に落ちた勇者の素早さに勝てるはずがなかったのです。


しかも、肝心の氷の国の氷河はというと――。

「あわあわあわわわわ〜 !!??!!?? 」

100畳大タペストリーに巻かれて身動きがとれないまま。
氷の国の氷河は、まるで芋虫みたいに不様な格好で、ペルセウス特急便のトラックが走り去るのをただ見送ることしかできなかったのでした。






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