「おまえたち、もう大丈夫だぞ。怖い人たちはどこかへ行ってしまったからな」 氷の国の氷河がそう言うと、小人たちは、氷の国の氷河の腕と胸の間からぴょこぴょこぴょこと顔を覗かせませした。 そして、ぴょんぴょんぴょんと、大理石が敷き詰められた遊歩道の上に飛び降りました。 「ふぅ〜。なんだか騒がしい人たちだったね」 「あ〜、ほっとしたら、なんだかおなかがすいてきちゃった」 「それは奇遇だね、実は僕もおなかペコペコなの」 「僕もおなかと背中がくっつきそう」 「だって──」 「僕たちは」 「15人で1人」 「1人で15人」 「みんなの心はいつでも1つ!」 「おお〜〜っっ !! 」× 15 ──と、小人たちは勇ましく拳を振り上げました。 けれど、おなかに力が入らなくて、次の瞬間にはみんな、へなへなへな〜と、その場に座り込んでしまったのです。 小人たちには、ついさっきアルゴルとミロの勇者パワーをまともに受けたダメージも、まだ少し残っているようでした。 「だ……大丈夫か、おまえたちっ!」 「僕、もう限界〜」× 15 「よし、わかった。待ってろ、すぐ、そこの屋台で何か買ってきてやるからな」 「氷河、お金持ってるの?」 ホットドッグの屋台に向かって駆け出そうとした氷の国の氷河を、氷の国の大蔵大臣9号が呼び止めます。 もちろんお約束どおり、氷の国の氷河は見事にその場ですっ転びました。 「は……ははははは。そういえば持ってない……」 メデューサと蠍の睨み合いよりも恐ろしく嘆かわしい現実を思い出して、氷の国の氷河はがっくりと力無く項垂れてしまいました。 でも、落胆の時は、ほんの一瞬。 今の氷の国の氷河には、運命の神様に愛されている小人たちがついているのです。 「あれ〜? これ、なぁに?」 「氷河の刺繍だー」 氷の国の氷河の周囲には、彼が転んだ拍子にぶちまけてしまった、アルゴル邸刺繍セールスマン潜入作戦の重要アイテムだったタペストリーとカーテンが散乱していました。 「まあ、なんて見事な刺繍なんでしょう!」 「こういうカーテンが欲しかったのよねぇ」 「このタペストリー、うちのリビングにぴったりだわ」 しかも、氷の国の氷河の作品は往来の人々の目にとまり、賞賛の的になっています。 「これはいけるよ」 9号の目がきらーん☆ と光りました。 「みんな、わかってるね?」 「もっちろん! 僕たちの心はいつもひとつだもの!」× 14 もうこの後のことは、詳しく説明しなくてもわかりますよね? 小人たちは、氷の国の氷河の刺繍タペストリーとカーテンの路上販売をしたんです。 小人たちと氷の国の氷河の刺繍作品の組み合わせは最強のタッグですから、氷の国の氷河の傑作は、あっという間に全部売れてしまいました。 そうそう。 この路上販売の間、9号が、氷の国の氷河の刺繍商品のPRに余念がなかったことも言っておかなければなりませんね。 そういう地道なPR活動が実を結んで、石の国に新しいお客さんが増え、近い将来、氷の国の財政に潤いを与えることになるんです。 目先の利益だけに目を奪われることのない9号の、長期的展望を踏まえたビジネスの才は、氷の国の氷河のセールスマンの才能のはるか上をいっているのでした。 |