伝説の始まりは、瞬ちゃんズサークルにやってきたお客さんの何気ない一言でした。

そのお姉さんは、
「毎回楽しく読ませてもらってるんです。これからも頑張ってくださいね!」
と瞬ちゃんズに声をかけ、それから、ちらりと小人たちのスペースを見て、瞬ちゃんズに尋ねました。
「あの……このマスコットも売り物ですか?」
――と。

「可愛いですねー、これ、瞬ちゃんズですよね」
広いテーブルの上に一列に並んでいた小人たちの一人をつまみあげようとしたお姉さんは、突然辺りに響いたみしぇ瞬ちゃんの、
「あ、そうだったんだー !! 」
という声にびっくりして、その手を空中で止めました。

「そーか、小人さんたち、売り子さんだと思われてなかったんだね!」
「こんなに可愛い小人さんのとこに、なんでお客さんが寄ってってくれないんだろうってさっきから不思議だったんだ、僕」
「僕も、僕も」
「なーんだ、心配して損しちゃったー!」

瞬ちゃんズの言葉に、そのお姉さんは目を白黒。
「う…売り子さん? え? え?」

お姉さんの驚きも当然のことです。
普通の人は、友だちにも親戚にも小人なんていませんからね。
「えーっ、このマスコット、生きてるんですかーっっ !!??  うっそー、信じられなーい、ちょー可愛ーい !!!! 」

お姉さんの悲鳴のような大声に、小人たちは危うくテーブルから転げ落ちるところでした。
その衝撃(?)から最初に立ち直ったのは、当然、知性と教養と商売人魂の9号でした。
9号は、お客様へのサービスのために持ってきていたカード型虫メガネを差し出して、お姉さんに、にっこりと特別Aランク・スマイルをプレゼントしたのです。
「どうぞ、お手にとってご覧ください」

9号のスマイルに、お姉さんは1ラウンドKOです。

「やーん、ほんとに生きてるー! 喋るー! 可愛い、可愛い、超可愛いっっ !! 」

9号に少し遅れて我に返った小人たちも、自分たちの本に目を向けてくれた最初のお客様に有頂天。

「あの、あの、僕たち、一生懸命作ったの!」
「お花やケーキや、僕たちの氷河の絵が描いてあるの!」
「僕たち、初めてのコミケなの」
「お姉さんは初めてのお客さんなの」
「み……見るだけでも見てください」

「お願いしますー !! 」× 15

これで、小人たちを無視できる人がいたら、その人の心は氷でできているに違いありません。
お姉さんはカード型虫メガネで本を見て、そこに描かれている小さな花や、小さなケーキや、小さなへのへのもへじに大感激。
「買う、買う、買うっっ !!  借金してでも買わせていただきます!」

「ほ…ほんとですかっ !? 」

ついさっきまで泣きたいくらい寂しい思いをしていた小人たちは、お姉さんの購入宣言に飛び上がって喜びました。

「わーい! 僕たちの本が売れたーっっ !!!! 」× 15

この喜びをどうやって表したらいいのでしょう。
嬉しくて嬉しくて、ほんとにほんとに嬉しくて、小人たちは、テーブルの上でダンスを踊り出してしまいました。

そのダンスがまた超可愛いものだから、小人たちのスペースの前は、あっという間に黒山の人だかりです。

けれど、小人たちは、そんなことにも気付かないほど、ダンスに夢中でした。
小人たちは、初めてのお客様がそれくらい嬉しかったのです。



初めてイベントに出て、初めて本が売れた時の感激が忘れられないから、同人娘はいつまでもこの世界から足を洗えないのかもしれません。

今はちょっとした大手サークルになっている瞬ちゃんズも、小人たちの喜ぶ様子を眺めながら、自分たちのコミケデビューのことを思い出していました。