氷の国の氷河が、
「よし、教えてやろう。合体して服を脱ぎ、そこに横になれ!」
と、きっぱり言える男だったらどんなにか良かったでしょう。

けれど、氷の国の氷河にそんなことが言えるはずがありません。
内心号泣しながら、彼に言うことができたのは、
「す…すまないな。これは、俺にも難しすぎて意味がわからん」
――と、それだけ。

「え〜」 × 15 

途端に、小人たちから不満の声があがります。

「しゅ…瞬ちゃんズはきっと、ものすごいインテリなんだな。は……ははははは……」
それは、実に空しく虚ろな笑い声でした。

しかし、小人たちには、その空しさもわかりません。
「でも、瞬ちゃんたちに、わかんなかったなんて言えないのに、どうしよう……」


氷の国の氷河は、小人たちの最後の砦でした。
氷の国の氷河は、いつも小人たちの側にいる、唯一のおとな。
瞬ちゃんズの本の意味が、その氷河にもわからないことだと聞かされて、小人たちは泣きそうな顔になりました。


氷の国の氷河が、そんな小人たちに、ちょっと辛そうな笑みを投げかけます。
「おまえたち、無理して、知ったかぶりしても、きっとろくなことにはならないぞ。もちろん、知らないことを知りたい、いろんなことを覚えたいという気持ちは、とても大事なものだ。だがな、無理はダメだ。毎日いっぱいご飯を食べて、たくさん眠って、ほんとに大人になったなら、いつかは何でもわかる時がくる」

氷の国の氷河は、彼の可愛い小人たちの顔を順々に見渡しながら、言葉を続けました。

「だからな、今は、わからなかったって、瞬ちゃんズには正直に言いなさい。瞬ちゃんズはきっと、微笑って許してくれるさ」

「そうかなぁ」
「もちろんだ。さあ、今日はコミケで疲れたろう。今夜はもう眠りなさい」

「うん……」
小人たちは、まだちょっと不満そうでした。
けれど、氷の国の氷河の言葉で疲れと眠気を思い出したのか、15人は順番に小さなあくびをして、氷の国の氷河のほっぺに、『おやすみなさい』のちゅうをしました。

「氷河、おやすみなさい」
「氷河、ぱんつ縫い終わったら、僕たちのとこに来てね」

「ああ、おやすみ」

氷の国の氷河は、笑顔で小人たちを見送ることのできた自分を、心の底から褒めてやりたいと思いました。


その夜、氷の国の氷瞬城の一室から、聞く者の胸を締めつけるように哀しく切ないむせび泣きが、朝方まで洩れ聞こえていたそうです。