「……帰れ……!」
9号は、愛する氷の国の氷河を寄生虫呼ばわりされても平気な顔をしていられるほど、冷血な商人ではありませんでした。

「え?」

「帰れ、帰れ、帰れっっ !! おまえなんかに、僕たちの鍵盤売ったりなんかするもんかっ!」
「あら、このバカな小人が何かバカなことを言ったようだけど、気のせいかしら」

「気のせいなんかじゃないやいっ !! 僕たちの氷河をバカにする奴は、みんな僕たちの敵だっ! あっち行けっ! 僕たちのカッコいい氷河を、ゴキブリみたいに言うなんて!」

「ええええええっ !! 」× 14

「売らないですって? まーあ、おバカさん。もし売らないというのなら、違約金を請求するわよ。そうねぇ、100億円くらいが妥当かしら。この国を売り払っても用意できない金額でしょう」

「う……」
atenasaori_ojyoの提示した違約金の額に、9号はちょっとだけひるみました。
それは、atenasaori_ojyoの言う通り、小さな小さな氷の国を全部売り払っても用意できない金額だったのです。

でも。
たとえそうだったとしても。
9号には、氷の国の氷河を侮辱する人間を許すことはできなかったのです。
「売らないよっ !! 僕たちの氷河を、便所コーロギみたいに言う人になんてっ !! 」

「えええええええええええええっ !! 」× 14

9号とatenasaori_ojyoのやりとりを聞いているうちに、小人たちにも、寄生虫の意味がなんとなくわかってきました。
言葉の意味がわかったら、15人の心はひとつです。

「売らないぞー !! 」
「うん、絶対、売らない!」
「僕たちの氷河をばかにするなんてひどい!」
「うん、ひどい!」
「僕たちの氷河は優しくて、カッコよくて、お裁縫がうまくて」
「いつも可愛いぱんつを縫ってくれて、お風呂で遊んでくれて」
「とってもとっても優しいのに!」
「それなのにーっっ !! 」

「あーん、あーん、あーん !! 」× 14

「おまえたち……」
実は、氷の国の氷河は、atenasaori_ojyoの奇天烈な格好のショックから、まだ抜け切っていなかったのですが、それでも、小人たちが自分のために泣いてくれているのだということだけはわかりました。
わかっても――氷の国の氷河にできることは、じーん☆ と感動することくらいのものでしたが。

対して、atenasaori_ojyoの方は、まるで最初から出来上がっていた筋書きに従っているかのように、その言動はスピーディの極みです。
「ほほほほほほ! この小人たちはバカな上に、目の方もおかしいようね! じゃあ、違約金の方は弁護士を通じて話をつけましょう。100億円を準備して待っていなさい、小人たち!」

言いたいことを言いたいだけ言うと、atenasaori_ojyoは、わさわさと頭の羽飾りを揺らしつつ、飛行機に乗り込み、やってきた時同様、嵐のようにその場から立ち去ってしまったのでした。


後に残されたのは、ひたすらじーん☆ と感動することしかできないでいる氷の国の氷河と、窮地に立たされた氷の国の小人たちだけです。


「9号、どうするの……?」
「100億円って、おやつが死ぬほど買えるお金だよね……」
「僕たち、そんなお金持ってないよね……」


「…………」

9号は、へそくり全部をかき集めても、たったの12億円しか持っていませんでした。