合体瞬・花のお江戸シリーズ本邦初公開は、お釈迦様でも草津の湯でも予想だにしなかった、お江戸から遠く離れた長崎の地で2人の南蛮人の目の前で行われました。 「とりあえず、メニューの壱番から弐拾番までいただけますか。それと、飲み物は生クリーム入りココアをお願いします」 すんなり女性同伴テーブルに着いた合体瞬は、花のように可憐な笑顔で、長崎かすていらパーラーの女給さんに言いました。 「かしこまりました〜」 長崎かすていらパーラーの女給さんは、食べ放題目当てのお客の無謀な注文に慣れていたので、合体瞬の一見無茶な注文にも全く動じません。 「そちらのお客様方は、ご注文はお決まりでしょうか?」 「私は珈琲を」 「同じでいい」 「珈琲2つだけですか……?」 むしろ、珈琲しか頼まない異人さん二人の方に、胡散臭そうな目を向ける長崎かすていらパーラーの女給さんだったりするのでした。 「わあ……おいしそうなのばっかり!」 メニューを眺めながら、あれこれ品定めをしている合体瞬は、それはそれは可憐な様子をしていました。 ミロ医学者の鼻の下は、引き続き伸びきっています。 「あれは幸福の魔法の壺だったんだな」 「非科学的だ」 「メルヘンやファンタジーに科学的根拠など無いものなのさ」 「どういう物理的法則のもとで、ああいう現象が起こせるのか、非常に興味深いものはある」 「それは、この私がじっくり研究する。医学は私の専門だからな」 「共同研究する気はないか?」 「……お前さん、意外と好き者だったのだな」 「ばか者、科学者の知的探究心だ」 カミュ物理学者とミロ医学者の陰険漫才が、好き者漫才になりかけた頃、さっきの女給さんが再登場。 「お取り込み中、ちょっと失礼します〜。お待たせしました〜」 カミュ物理学者とミロ医学者の間に割って入ったのは、営業用スマイル全開の女給さんが押してきたワゴンに山と積まれたかすていらメニュー20種類でした。 「ご注文の品、ご確認ください〜」 「は〜いv」× 1 「壱番 定番かすていら 弐番 つぶ餡かすていら 参番 うぐいす餡かすていら 四番 白餡かすていら 五番 くり餡かすていら 六番 ごま餡かすていら 七番 ゆず餡かすていら 八番 抹茶餡かすていら 九番 味噌餡かすていら 壱拾番 かぼちゃ餡かすていら 壱拾壱番 チョコかすていら 壱拾弐番 マロンかすていら 壱拾参番 カスタードかすていら 壱拾四番 イチゴジャムかすていら 壱拾五番 ピーナッツバターかすていら 壱拾六番 バナナかすていら 壱拾七番 アーモンドかすていら 壱拾八番 桃かすていら 壱拾九番 甘柑かすていら 弐拾番 西瓜かすていら 生クリーム入りココア 珈琲お二つ 以上でよろしいでしょうか〜」 「は〜い」× 1 可憐な笑顔を見せる合体瞬の向かいの席で、カミュ物理学者とミロ医学者の顔は、こころなしか引きつっています。 「す……すさまじいな」 「食べ放題だから大丈夫だ」 「今はな。しかし、いつも食べ放題があるとは限らないのだぞ」 「う……」 ミロ医学者が絶句したところで、合体瞬は、お行儀良く、お食事前のご挨拶です。 「いっただきま〜す!」× 1 各種かすていらに囲まれて、合体瞬はまるで天国にいるような気分でした。 |