青い空と青い海が、そろそろオレンジ色に染まり始めています。
まもなく、インド洋に夜が来ようとしていました。

「あれっ !? 」
「どうしたの?」
「13号がいないよ」
「さっきまで、あそこでトリトンジャンプしてたはずなのに……」
「もしかして、海に落っこちたとか……?」
13号の姿が見えないことに小人たちが気付いたのは、海の向こうに夕陽が半分沈んだ頃でした。

「なっ……なに〜っっ !? たっ大変じゃないか〜〜っっ !! 」
阿蘭陀行きの船を大破させた張本人が、途端にあたふた取り乱し始めましたが、小人たちは平気の平左。

「落ち着いて、氷河。イルカさんも付いてるし、大丈夫だよ、きっと」
「一心同体の僕たちが平気なんだもん、13号に身の危険はないはずだよ」

小人たちにそう言われても、銭形氷河の不安は拭い去れません。
彼は不安顔で、きょろきょろと辺りを見回しました。
そうして、彼は、海の彼方から、大きな大きな何かがゆっくりと、こちらの方に近付いてくるのに気付いたのです。

「あれ、な〜に?」
「山だよ、山が泳いでくるー」
「よかったね、陸に上がれるよ!」
「わーい!」
「助かったね、よかったね〜」

小人たち以下、阿蘭陀行きの船に乗っていた乗員乗客たちは、数時間ぶりに見る海と空以外の大自然に歓喜の声をあげたのですが、実はそれは山でも陸地でもなかったのです。

「みんな、慌てないでよく見るんだ。あれは山じゃない、あれは……」
「あれは……」

「カ……カメ……?」
「うん、カメだね」
「カメだよ」
「おっきいカメさんだねー」

小人たちの言う通り。
大海原に投げ出された一行が陸地だと思ったものは、とてもとても巨大な、小山ほどもあるカメの甲羅でした。
そして、その巨大なカメの甲羅の上には――。

「あれ、あのカメさんの甲羅の頂上で手を振ってるのって、13号じゃない?」
「そうだよ、13号だ」
「おーい、13号ー!」

「やっほー !! 」
その巨大なカメの甲羅の上には、冒険好きの13号が乗っかっていたのです。

実は、13号は溺れていたのではなかったんです。
トリトンごっこに夢中になって、みんなのいる場所から離れたところに行ってしまった13号は、その時たまたま、甲羅の隙間に珊瑚のかけらが刺さって苦しんでいた大きなカメを見付けて、助けてあげていたのでした。

「あのね、カメさんがね、お礼がしたいから一緒に来てくださいって」

「カメカメ〜(訳:私は海王ポセイドン様に仕えるカメでございます。こちらの小人さんにお話は伺いました。ぜひ、お礼がしたいので、私についてきてくださいな。どうぞ皆様、華麗なる海底神殿で、絵にも描けないお楽しみを味わってくださいまし)」
巨大なカメさんは、受けた恩を忘れない、とても律儀なカメさんでした。

「わ〜い、なんだか楽しそうだね!」
「なんてったって、お楽しみだもんね」
「わくわくするよね」
「行ってみたいね、海底神殿!」
小人たちは、おいしいことも大好きでしたが、楽しいことも大好きです。

仲間たちの意見を聞いて、9号も思慮深げに頷きました。
「そうだね。みんな疲れてるし、ずっとここにいるわけにもいかないし……。ここから動くにしても、夜の間は危険だ。それに海底神殿で情報がもらえれば、今後の対策も立てられるね」

「じゃあ、海底神殿へ行くことにけってーい!」
「れっつごー!」
「ごー !! 」× 15

「カメカメ〜(訳:それでは皆さん、私の体に掴まってくださいね〜)」

阿蘭陀行きの船に乗っていた乗員乗客たちの進退の決定権を握っているのは、船長さんでも航海士さんでもなく、花のお江戸の小人たちでした。
なにしろ、小人たちは、どんな異常事態にも挫けず絶望しない強さと明るさを持っていますからね。
スクランブルに弱い人間たちは、小人たちの決定に従うことに、何の疑問も不自然さも感じていなかったのです。


「確か、日本の伝承民話にこういう話があったような気がするが……」

クラゲに好かれたミロ医学者の呟きは静かに波間に消えていき、かくして、小人たち一行は、助けたカメに連れられて、一路、海底神殿へと向かうことになったのでした。







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