「瞬、そのケーキ、もう6個目じゃないのか?」 「それが氷河にどう関係あるの」 「いや、そんなに甘いものばっかり食って、具合いが悪くなりはしないかと――」 繊細で傷付きやすかろうが、生意気で反抗的であろうが、これだけは変わらない瞬の甘党。 目の前で次々に姿を消していくケーキの数に驚きを隠せないまま、氷河は、彼にとってはどうでもいい存在になってしまった今の瞬に、告げた。 その身を心配してではなく、半ば以上ただ呆れて。 氷河の思っていた通りに、瞬はすぐに天邪鬼な言葉を投げ返してくる。 「僕はこれまでケーキ10個食べたって、具合いが悪くなったことなんかないよ。余計なお世話!」 そう言い返してくる瞬に、どんな気遣いや心配をする必要があるだろう。 氷河は、何の遠慮もなく、瞬の前に、不快極まりないという態度を示した。 「人がこう言えばああ言う。昔のおまえはもっと可愛かったぞ」 「…………」 瞬は、ほんの一瞬間だけ沈黙し、そして、すぐに氷河に言い返してきた。 「僕は氷河に可愛いなんて思われたくないの。可愛いより強いって思われたいんだよ」 それとケーキを6個平らげることの間に、どういう関係があるというのだろう。 人の言動に過敏なほどの反応を示していた以前の瞬なら考えられない口答えに会って、氷河はおもむろに、そしてあからさまに顔をしかめた。 「人にやたらと反発するのと強いってことは全然別物だぞ」 「…………」 「強いってことは、人に優しくできるってことだろう。以前のおまえはそうだった。以前のおまえは誰にでも優しくて、もっと素直に人の言うことを……」 瞬を咎める言葉を、氷河が途切れさせたのは、すぐにまた反抗的な言葉を返してくるのだろうと思っていた瞬の唇が、いっこうにその仕事を開始しようとしなかったからだった。 しばしの間を置いてから、やっと瞬の唇から発せられた声と言葉は、力無く切なげで、まるで苦しさに呻くような呟きだった。 「……人に優しくできても弱い人間はいる」 「なに?」 「じゃあ、僕はどうすればいいの……っ !! 」 椅子から立ち上がった瞬が、テーブルの上に置いた二つの拳は小刻みに震えていた。 「瞬?」 瞬のその言葉が、これまでの反抗のための反抗の言葉とは違うことに、氷河はすぐに気付いた。 瞬の声には、そして、その瞳にも、涙が滲んでいたのだ。 「僕はどうすればいいの……! どうすれば氷河の側にいられるの! どうすれば氷河に好きでいてもらえるのっ !? 」 それきり顔を伏せ、黙り込んでしまった瞬の肩は、ひどく細く、ひどく頼りない。 透き通った真珠の粒が、テーブルの上に置かれた瞬の白い小さな拳に零れ落ち、砕けて消えていった。 |