「クワガタムシ……。あれ、氷河が僕のために一生懸命探してくれたクワガタムシだったんでしょう? 星矢が教えてくれたよ」 「お節介が……!」 では、瞬がじゃじゃ馬になっていたのは、星矢の余計なでしゃばりとお喋りのせいだったのだ。 舌打ちする氷河に、瞬は心底から嬉しそうな微笑を向けた。 たとえ長い時を経てからでも、自分に向けられていた優しさに気付くことは幸福なことである。 一生気付かないでいることに比べたら、ずっと。 気付きさえすれば、知ることさえできれば、 「氷河、ありがとう。ごめんなさい」 と、感謝することもできるのだから。 「瞬……」 「大丈夫。きっと。一人じゃないのなら、僕は強くなれるよ。強くなりたいの」 繊細で傷付きやすいじゃじゃ馬が、言葉ではなく眼差しで、氷河にそれを望んでいた。 氷河は、そうして、その望み通り、今は穏やかに微笑んでいる彼の可愛らしいじゃじゃ馬を、しっかりとその胸に抱きしめたのである。 Fin.
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