袋から出てきたそれに、氷河は目を剥いたのである。

無論、氷河は、これまで、一般人から見たら非常識としか思えないような力を持つ、多くの闘士や戦士に会ってきた。
彼らの用いる技の多くは、光速の拳だったり、炎や水や空気を自在に操るものだったり、はたまた物理的・化学的に理屈の通らないものだったりと、常軌を逸したものが多かったが、彼等自身の姿形はまぎれもなく人間だった。
その8割方が『美形』と言って差し支えないような、人間たちばかりだった。

氷河は、そういう種類の化け物には慣れていた。
しかし、今、彼の目の前に出現したそれは――。


それは、どこからどこをどう見ても、人間外の生き物だった。
それどころか、この地球上ではとんと見かけたことのない生き物でもあった。



「こんにちは」

その人間外・地球外の生き物が、なぜか袋を開けた氷河にではなく、彼の後ろに立っている瞬に、実に礼に適った挨拶をする。

「うわ、喋るぞ、こいつ!」

氷河の驚きを無視して、その地球外生物はまっすぐに瞬を見ている。
「僕、ペットントン」

そして、彼(?)は名を名乗った。

「こんにちは。僕、瞬だよ」
瞬が――瞬もまた、臆した様子もなく、その地球外生物――ペットントン?――に向かって、にっこり笑いかける。

「…………」
氷河は、その展開に――彼にしてみれば意外な、しかし、瞬とキノコの化け物は自然と感じているらしい、その展開に――これ以上はできないほど思いきり眉をひそめた。


「瞬、おまえ、驚かないのか?」
「え? 何を?」
「こいつ、人間じゃないぞ」
「うん、そうみたい」
「どこから何をどう見ても化け物だぞ」

「そんなことないよ、可愛いじゃない」

瞬の言葉に、氷河は二度目のびっくりである。

「か…可愛いだと !?  こ……これがか?」

「うん。優しそうな目してるし」
(アホそうな目だ)
「可愛い脚」
(ただの短足)
「ふふ。おだんごみたいなおへそ」
(ただの出べそじゃないかーっっっっ !!!!!!!!!! )


氷河には、訳がわからなかった。
思いきり混乱していた。

瞬は面食いのはずである。
少なくとも、氷河はそう信じていた。
でなければ、瞬が自分と一緒にいてくれる理由がない――彼は、そう思っていたのである。


「しゅ……瞬、おまえ、こーゆーのが好みなのか?」
「好み……って……」

瞬が小さく首をかしげて、しばし考え込む素振りを見せる。
氷河は、その邪気のない様子に思わず知らず目を細めた。

が、彼はノンキに瞬に見とれている場合ではなかったのである。
瞬は、短い黙考の後、あどけなく言い放った。

「うん、割と好みかもしれない」
「なんだとぉ !? 」
「だって、ペットントン、氷河に似てるよ」
「に…似て……ど…どこが……この、スマートで、脚が長くて、顔が良くて、頭が切れて、ギャラントでセクシーなこの俺が、この枯れたもやしを頭に乗せた笹団子の化け物と、ど…どこが似てるっていうんだーっっっ !!!!!! 」

氷河の叫びの悲痛さは、あまり瞬の胸には響かなかったらしい。
瞬は、指を折りながら、氷河とペットントンの類似点を挙げ始めた。
「頭が一つあって、手が二本あって、脚が二本あって、目が二つあって、口が一つあって、髪もあるし、言葉も喋るし……」

瞬が、氷河とペットントンの類似点を30箇所も言い終わった頃、氷河は口から泡を吹いてその場にぶっ倒れていた。


臨終の言葉は、
「俺は出べそじゃない……」






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