その頃、瞬は不思議な写真を見ていた。

瞬は、いつも氷河と一緒にいた。
地球外の生き物などに出会ったこともなければ、ここ数年病気らしい病気もしたこともない。


瞬が見ているのは、氷河と二人で撮った写真だった。
二人の間には、ぽかんと不自然な空間があった。

「ねえ、氷河。この写真、こないだ星矢たちと川原でバーベキューした時に撮った写真だよね」
「うん?」
「どうして、僕たち、こんなに離れてるの? 何か変じゃない?」

「変だな、確かに」
「でしょう?」

その奇妙な写真を覗き込む氷河の横顔を、瞬は不安そうに見詰めた。

「まるで、僕と氷河の間に誰かもう一人いたみたい」
「俺とおまえの間にか?」
「……そんなはず、ないよね」

「そうだ。だいいち俺とおまえの間に割り込んでくる奴がいたら、俺が蹴り倒していたはずだ」
そう言われてみれば、写真の氷河はまるで空気を蹴っているような格好をしている。

瞬は、氷河の言葉にくすりと小さな笑いを洩らした。
「氷河ってば、空気を邪魔者扱いしてるみたい」
「何だって邪魔だな。おまえと俺の間にあるものは」



「俺の側にいたいと思ってくれているだろう?」
瞬に、そう思っていてもらえなければ、生きている価値も意味もないのだ、氷河には。

「氷河の側にいると、僕は幸せな気持ちになれるよ」

瞬の答えに安堵して、氷河は自分たちの間にある空間を追い払い、瞬を抱きしめた。

「空気も遠慮するさ、おまえの幸せのためなら」



窓際のテーブルの上に置かれた、ぽっかりと奇妙な空間を写した写真は、しばらくそこで、風の誘いを拒むように身じろぎを繰り返していた。
だが、やがて、窓から入ってきた風に乗り、自ら望んだかのようにどこかに飛んでいってしまった。






Fin.







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