「一輝を見ていてもいい。俺がおまえを見ていることを忘れないでいてくれるのなら」 大人の振りをして、俺はそう言った。 そんな心にもない嘘をついたことを後悔はしていない。 その嘘のおかげで、俺は、我を通していたら手に入れられなかっただろうものを手に入れた。 瞬に口付け、瞬を抱き寄せ、抱きしめ、瞬と共に過ごせる夜。 だが、そんな夜を手に入れてしまったら、その夜の中に一輝の影のかけらすらも見い出したくないという思いが強まって、大人の振りをしていることがなおさら難しくなるばかりだった。 「おまえは相変わらず、俺ひとりでは駄目なのか?」 折りに触れ、俺は瞬に問いかける。 瞬は、何も言わずに微笑だけを返してくる。 |