「陛下、可愛らしい連れとご一緒ですね」

公式の場ではないので、ヒョウガの方から声をかけることも礼を失していることにはならないのだが、新参の者がそれをするのは礼に適っているとも言い難い。
しかし、もともと人の好いのだけが取りえのフランス国王は、ヒョウガの無礼に気付いた気配もなかった。

「おお、キエフ公。いかがかな、ベルサイユの暮らしには慣れましたか」
「はい。国が用意してくれた屋敷よりはずっと、こちらの方が過ごしやすい」
「それは大変よろしい。あなたがいると、場が華やぐ。シュンと並ぶと我が宮殿の庭園の花々も色褪せて見えるようだ」

「シュン……というのですか」

ヒョウガに見詰められたシュンは、新任のロシア大使に軽く一礼した。
その無味乾燥な反応に、ヒョウガは少しばかり気が抜けてしまったのである。
男でも女でも、自分に見詰められて少しも動じない人間というのに、ヒョウガはあまり出会ったことがなかった。
自信過剰というのではなく、事実、これまで彼が出会ったほとんど全ての人間は、そういう場合、そわそわした素振りを見せたり、戸惑った様子を示すのが常だった。そういう反応に、ヒョウガは慣れていたのである。

この可憐な少年は、感性というものの持ち合わせが少ないのか、あるいは心が石でできているのかと、ヒョウガは訝った。
良からぬ趣味の持ち主やゲームとしての恋愛を鵜の目鷹の目で捜しまわっている者たちの多い退廃したこの宮殿で、目配せ一つにも過剰反応する者にしか、ヒョウガは出会っていなかったのだ。






【next】