瞬が、そんな平和な忠律府高校に異分子が紛れ込んだことに気付いたのは、彼が生徒会長の任に就いて二ヶ月が過ぎた頃だった。

瞬は、幼馴染みである紫龍と星矢に、2学年に転校してきた某男子生徒が全く学校に出てこないという話を聞かされたのである。
金髪のその生徒は、氷河という名の日露のハーフだった。



「あいつ、おまえたちとちょうどすれ違いで、俺たちのいた養護施設に来た奴なんだ」
と、役員でもないのに生徒会室に入り浸っている星矢は、瞬に、氷河の家庭の事情を説明してくれた。

瞬が、兄と一緒に今の家に引き取られたのは、瞬が小学校に入る少し前のことだった。
同じ施設で育った紫龍や星矢も、瞬に数年遅れて、子供のない夫婦の許にそれぞれ引き取られたのだが、その数年間を、星矢たちは氷河と共に同じ施設内で暮らしたのだという。

「なーんか、母親と二人で暮らしてて、その母親が死んだから養護施設に収容されたらしいんだけどさ、2年くらいしたら、実の父親とかいうのが現れて、すげー車で氷河を連れてっちまったんだ」
「父親の家を抜け出して、何度も施設に戻って来て、そのたびに連れ戻されていたな」
「色々フクザツみたいでさー。ま、へたに金持ちの家らしいし、父親も、後継ぎ欲しさに、昔の愛人の子供を探し出しただけみたいでさ。遺伝子鑑定して、氷河が自分の実の子だってこと確認してから、引き取ることを決めたって話だぜ」

当時、小学校に入ったばかりだった星矢たちが、そのあたりの事情を詳しく知らされているはずがない。だが、それでも“親に見捨てられた子供たち”は、そういう雰囲気には敏感なのである。


「おまえ、何とかあいつを更生させてやってくれよ。根は悪い奴じゃないんだぜ」
「奴の場合、悪いのは家庭環境の方だろうな」

他ならぬ星矢と紫龍に頼み込まれ、母校の生徒の平和と安寧を守るのが生徒会長の使命と肝に命じていた瞬は、そういうわけで、氷河という問題児と関わりを持つことになったのだった。






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